航空機がさまざまな演舞を見せるアクロバットショー。航空自衛隊の「ブルーインパルス」は有名ですが、実は陸上自衛隊にもハイレベルな演舞で魅せるヘリコプターチームが存在します。

「ひな鳥」を鍛える教官たちが

 自衛隊のアクロバット飛行チームといえば、いまや国民的人気を誇るまで愛されるようになった航空自衛隊の「ブルーインパルス」が有名ですが、陸上自衛隊にも年にたった1度だけ臨時編成される、ヘリコプターによるアクロバットチームがあることをご存知でしょうか。

 その名は「ブルーホーネット」。メンバーは、陸上自衛隊の次世代を担う“ひな鳥”(陸曹航空操縦学生)たちを鍛えあげる、航空学校宇都宮校(栃木県)の教官らによって編成されます。


緊密な編隊で演舞し、観客を魅了した陸自の「ブルーホーネット」(2016年6月、関 賢太郎撮影)。

「ブルーホーネット」は、例年5月半ばに行われる「北宇都宮駐屯地開庁記念行事」の航空ショーにおいて、アクロバット飛行を披露しています。今年(2016年)は5月に「伊勢志摩サミット」が行われたため6月19日(日)の開催になりましたが、当日は梅雨時にも関わらず好天に。ヘリコプター独特の機動を交えた一糸乱れぬ演技に、飛行場を埋め尽くした多くの観客たちがパイロットたちへ惜しみない拍手を送りました。

 世界中に軍隊系のアクロバット飛行チームは数多あれど、そのほとんどは飛行機を使用しており、ヘリコプターを使うチームは少数です。そのユニークな魅力に迫るべく、「ブルーホーネット」全6機のなかの1番機を操縦し「ホーネット・リーダー」として編隊を率いる、操縦教官の福田友彦3等陸佐に話を聞きました。

【注】本記事において、「ブルーホーネット」の飛行展示を便宜上「アクロバット」およびそれに類する言葉で表現していますが、日本の航空法においてヘリコプターのアクロバット(曲芸)飛行は禁じられています。「ブルーホーネット」(および「スカイホーネット」)の飛行展示(演技)は、航空法で認められた範囲内でのみ行われています。

ヘリコプターTH-480Bでの演舞、そこにあるメリット

 まず、世界でも珍しいヘリコプターによるアクロバット飛行展示について、福田3佐は「操縦教官の技量向上と団結の強化を図るとともに、その成果を一般の方にも見ていただこうという思いで行っています」と話します。

「ブルーホーネット」で使用しているヘリコプターは、2011(平成23)年に導入されたエンストロム社(アメリカ)製のTH-480Bという練習機です。福田3佐によれば、このTH-480Bは「OH-6Dに比べ余剰出力(高度なアクロバット機動を行うにあたって必要なエンジンパワーの余裕)が少ない」機体だとか。

 OH-6Dは、陸上自衛隊航空学校でかつて練習機として使用されていた“たまご型”の可愛らしいヘリコプターで、同型の機種が観測ヘリコプターとして使われていたこともあり、陸上自衛隊らしいグリーン系の迷彩塗装が施されていました。これを用いて演技(飛行展示)を行っていたころは、機体上部にあるメインローターの音がハチの羽音に似ていたことから、「スカイホーネット」というチーム名でした。

 しかし、このOH-6Dの耐用命数が近づいたことに伴い、新しく導入されたTH-480Bは、それまでのイメージから大きく変わるということでチーム名称も部内で検討。2015年より「ブルーホーネット」として再スタートし、機体色もその名の通り、青色の清々しい塗装になっています。


名前の通り、青色に身を包む「ブルーホーネット」(写真出典:陸上自衛隊)。

 OH-6Dに比べTH-480Bの余剰出力は少なくなりましたが、必ずしもデメリットばかりではないと福田3佐は言います。

「TH-480BはOH-6Dに比べ速度が遅いので、飛行場の周辺のみで演技をコンパクトにまとめることができます」(福田3佐)

 つまり、観客の目の前から大きく離れることなく、短時間で次々と演技できるという利点があるのです。

「現在のTH-480BはOH-6Dよりも速度を出せないため、迫力にやや欠けると思いますが、隊形の保持に留意して実施しています。航空機の性能を最大限発揮するとともに、見ている方が楽しめるように課目を構成しています。6機が息をそろえて演技しているところを見ていただきたいです」(福田3佐)

「インパルス」のように、「専門」ではないものの

「ブルーホーネット」のパイロットは、前述のように航空学校宇都宮校の教官であり、「ブルーインパルス」のようにアクロバットを専門にはしていません。

しかしながら、いずれも経験豊富な教官らが、1機につき操縦担当と周囲の確認担当の計2名で搭乗し、相互に連携することによってリスクに対する予知を高めるとともに、安全の確保に細心の注意を払って演技しています。

 そして、その優れた技量を有する6機12名によるアクロバット飛行は、非常に高いレベルにあります。筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は、これまで世界各国の軍隊によるアクロバットチームを50以上取材してきましたが、今回の取材で体験した「ブルーホーネット」の素晴らしさは、それら世界有数のアクロバットチームのひとつとして名を連ねるに値するものであると確信させるものでした。


「ホーネット・リーダー」を務める陸上自衛隊 航空学校宇都宮校教育課の福田友彦3等陸佐(写真出典:陸上自衛隊)。

「ヘリコプターの操縦士は非常にやりがいのある仕事です。健康な人なら男女を問わずなれるので、ぜひ目指してください!」(福田3佐)

 今年の「北宇都宮駐屯地開庁記念行事」には、多くの子どもたちが来場しました。そのなかから将来、ヘリパイロットになる人が出てくるかもしれません。

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