旅客用車両が西武鉄道の中古だらけという「西武王国」の地方私鉄があります。ただし、その一つはまもなく激変する見込み。
元西武鉄道の中古車両が旅客用車両のほとんどを占める「西武王国」の地方私鉄には、西武鉄道の全額出資子会社の近江鉄道(滋賀県)があります。これとは別に、西武だらけながら、2025年5月に変わろうとしている激変前夜の私鉄路線があります。
三岐鉄道三岐線の801系803編成(大塚圭一郎撮影)
それが三重県の三岐鉄道三岐線で、筆者(大塚圭一郎・共同通信社経済部次長)は現地を訪れました。元西武車両に揺られていると、西武のお膝元にある別の私鉄と似ていることに気づきました。
三岐線は近畿日本鉄道名古屋線の近鉄富田駅から分岐し、西藤原駅までの26.6kmを結びます。電化された単線で、線路幅は狭軌(1067mm)です。近鉄富田駅の3番線を発着し、同じ島式プラットホームの対面の2番線からは近鉄名古屋方面に向かう電車が発着します。
近鉄から乗り換える場合には2、3番線のホーム上にある「乗り換え専用IC改札機」の「出場」の端末に全国の交通系ICカードをかざすと近鉄の運賃を決済可能。駅の改札口をいったん出なくても近鉄と三岐線を乗り継ぐことができます。
端末の上には「近鉄線⇔三岐線 乗り換えはICカードをタッチ」と記された看板がありますが、三岐鉄道は「三岐線では IC カードはご利用いただけません」と説明します。
地元以外の利用者にも分かりやすいように、看板の下に「三岐線では IC カードを使えません。
近鉄富田駅の3番線を発車しようとしていたのは2両編成の101系です。西武時代は401系を名乗っていました。1980年代に西武新宿線で701系と連結した編成に乗っていた筆者は「40年前にタイムスリップしたようだ」と感激しました。
元西武401系は前面が「食パン」と呼ばれる切妻構造で、ヘッドライトが上部中央にあり、屋根上に円形のグローブ型ベンチレーターを備えているのが当時の国鉄103系と共通しているため、筆者はこの車両を「西武版103系」と受け止めていました。
ほぼ40年ぶりに“再会”し、後方の車両の運転席をのぞき込むとサプライズが待ち受けていました。運転台に付けられた車両番号のプレートが偶然にも「103」だったのです。旧・西武所沢車両工場で1964年に製造されたこの編成は、三岐鉄道への移籍時に車両番号が101系103編成に改番されました。
乗り換え電車も「マジかよ!」101系は動き出すと、「グオー」と目いっぱい力走していることを訴えかけるように大きなモーター音が響きました。耳を澄まして西武で乗車した時を振り返っていると、運転士は車内放送で「西藤原方面へは次の保々でホーム反対側の電車にお乗り換えください」と案内しました。

近鉄富田駅の3番線に停車中の三岐鉄道三岐線101系103編成(大塚圭一郎撮影)
止まっていたのは、西武がかつて採用していた赤色とトニーベージュのツートンカラーの「赤電」塗装の電車でした。正面が2枚窓になった1966年製の元西武701系で、三岐鉄道では801系803編成です。
運転士は利用者が乗り換えのため電車を移動する手間を「すみません」とわびていましたが、アーモンドグリコのように「一粒で二度おいしい」、いや「一粒で三度おいしい」乗り換えならば大歓迎です。
「あの私鉄」に似ている納得の理由三岐線の乗車中に貨物列車とすれ違い、沿線風景を見て「あの私鉄に似ている」と思いました。西武鉄道との連絡線があり、西武から一部の電車が乗り入れる埼玉県の私鉄、秩父鉄道です。それには納得の理由がありました。
秩父鉄道の沿線にある武甲山(標高1304m)は石灰石の採掘面がむき出しになっていますが、同じように三岐鉄道三岐線沿線にも石灰石の採掘面がむき出しになった藤原岳(標高1144m)があります。
石灰石はセメントの原料として使われており、秩父鉄道と三岐線の沿線地域には太平洋セメントの工場があります。秩父鉄道の貨物列車は武甲山の鉱山の一つである三輪鉱山からの石灰石などを太平洋セメント熊谷工場に運びます。
一方、三岐鉄道はJR貨物と連携して貨物列車を運行し、太平洋セメント藤原工場で生産したセメントを四日市港へ運び出しています。JR東海の関西本線も乗り入れる富田駅では、セメント運搬用貨車をけん引してきた三岐鉄道の電気機関車ED45形から、JR貨物の電気式ディーゼル機関車DF200形「エコパワーレッドベア」へ付け替える作業が見られます。
三岐線の起点はJR関西本線が通る富田駅で、近鉄富田駅へ向かう際には途中の三岐朝明(さんぎあさけ)信号場で分岐する「近鉄連絡線」を通ります。ただ、富田駅に発着するのは貨物列車のみで、旅客列車の起点は近鉄富田駅です。
このようにセメント工場と切っても切り離せない関係を持つ秩父鉄道と三岐鉄道は、ともに太平洋セメントが筆頭株主になっています。よって、秩父鉄道と三岐鉄道は「遠い親戚」のような関係と言えます。

三岐鉄道の電気機関車ED45形が引くセメント運搬用貨車。左に「5000系」が(大塚圭一郎撮影)
家電量販店ビックカメラのCMソングの歌詞「東が西武に西 東武」に引っかけると、主力の旅客用車両が元東急電鉄の秩父鉄道と、元西武鉄道が走る三岐線は「東が東急に西 西武」と言うべき関係です。
しかしながら、後者は過去のものになる日が刻一刻と近づいています。
三岐鉄道はJR東海から譲り受けた211系を改造した「5000系」を、三岐線で2025年5月から営業運転すると公表。「既存車両の更新用として」3両編成を計24両導入するとしており、この車両数は、引退が発表された編成を含めた元西武車両と一致します。したがって置き換え完了後は5000系に一本化される見通しです。
富田駅の近くや東藤原駅構内などでは、元西武車両の後を襲う211系が「湘南色」の帯のままで留置されていました。かつての西武車両の雰囲気を追体験するため、三岐鉄道三岐線を訪れるべきなのは「今でしょ」と言えます。