今治造船がJMUの出資比率を60%に引き上げて子会社化すると発表しました。造船業界の再編が進む中、「総合重工系」から造船「専業系」への転換が加速しています。
日本国内で造船トップシェアを占める今治造船は2025年6月26日、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)の出資比率を60%に引き上げ、子会社化すると発表しました。総合重工の造船部門をルーツに持つJMUは、これにより造船専業系である今治造船グループの一員となります。
今治造船の今治工場(深水千翔撮影)
今治造船の担当者はJMUのグループ会社化について「日本の造船業を発展させるため」と説明します。
JMUは2013年1月、日本鋼管(NKK、現JFEホールディングス)と日立造船(現カナデビア)の船舶部門が統合して発足したユニバーサル造船と、石川島播磨重工業(IHI)の船舶海洋事業と住友重機械工業の艦艇部門が統合したアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド(IHIMU)が合併して発足しました。こうした経緯もあって2020年末時点の出資比率はJFEとIHIが49.42%、日立造船が1.16%でした。
現在のJMUの新造拠点は有明事業所(熊本県長洲町)、呉事業所(広島県呉市)、津事業所(三重県津市)、横浜事業所磯子工場と鶴見工場(いずれも横浜市)で、因島事業所(広島県尾道市)と舞鶴事業所(京都府舞鶴市)では修繕を行っています。これまで手掛けてきた船種はタンカー、バルカー、コンテナ船から、LNG(液化天然ガス)船、カーフェリー、自航式SEP船(自己昇降式作業台船)など多岐にわたります。
2023年には呉事業所で世界最大規模となる2万4000TEU級のコンテナ船「ONE INNOVATION」が竣工しました。艦艇ではステルス戦闘機F-35Bの搭載に向けた改造工事で話題のいずも型護衛艦や、イージス艦のまや型護衛艦などを建造しました。官公庁船も数多く受注しており、その中には砕氷型巡視船「そうや」、北極域研究船「みらいII」といった砕氷タイプの特殊な船も含まれています。
JMUは「お客さん」でもある―出資企業の胸の内しかし中国・韓国の造船業が台頭したことで受注競争が激化し、日本の造船シェアが下がり続ける中で生き残りを模索する必要が出てきました。JMUは舞鶴事業所での商船建造から撤退する一方で、今治造船と資本業務提携を結び、2021年1月には共同の営業・設計会社「日本シップヤード(NSY)」が発足しました。

JMU呉事業所で竣工した世界最大級のコンテナ船「ONE INSPIRATION」(深水千翔撮影)
そして2025年6月26日、JFEとIHIが所有するJMU株式の一部を今治造船が取得することで合意しました。現在の出資比率はJFEとIHIがそれぞれ35%、今治造船30%ですが、取り引きの成立後は今治造船が60%、JFEが20%、IHIが20%となる予定です。
JFEの広報は「専業系の今治造船のグループに入ることで、JMUを成長させていくための経営判断を、迅速に進めることができる」と説明しました。また、「JMUは鉄鋼の顧客であり、同社の成長は(JFEの)売り上げ増加につながります。もちろん株主としてのメリットもあります」と明かします。
IHIの広報も「国際競争力の強化という面が大きい」とJMUの今治造船グループ入りについて述べ「今後も艦艇など防衛事業でサポートしていきたい」と意気込みました。
今治造船の担当者は「中韓にシェアが奪われている」ことへの危機感が背景にあると説明した上で、グループ会社化することで「(NSYでの)営業・設計だけでなく現場や工場間での協業を進め、シナジーを発揮していきたい」と意気込んでいました。
ちなみに、今治造船の発表と同じ2025年6月26日には、常石造船も傘下の三井E&S造船を「常石ソリューションズ東京ベイ」へ、由良ドックを「常石由良ドック」へ、三井造船昭島研究所を「常石造船昭島研究所」へそれぞれ社名変更することを発表。すでに三井E&Sとの資本関係もなくなっており、歴史ある「三井造船」の名前を冠した社名が消滅します。
長い不況とそれに伴う再編を経て、かつて日本の造船業を牽引していた総合重工系の造船会社にとって、また一つの転機が訪れた日となりました。