日本とイギリス、イタリアが共同開発するGCAP(Global Combat Air Programme=次期戦闘機)と同じように、フランスとドイツ、スペインが一緒に取り組むFCAS(Future Combat Air System:将来戦闘機システム)はフランス・ドイツ間の主導権争いにより遅れが指摘され、戦闘機に先立つ技術立証機の製造も繰り延べされるのではないかとされています。一方、GCAPはイギリスで技術立証機の製造が進んでいますが、これはイギリス主体のもの。
フランス・ドイツ・スペインによるFCASの開発自体は2017年に始まりました。一方、GCAPは2022年暮れに日本・イギリス・イタリアの枠組みでの開発が発表されています。FCASはフランス「ラファール」、GCAPはイギリス「タイフーン」と日本のF-2の後継となる、第6世代の戦闘機を目指しています。FCASが目標としている配備時期は2040年ごろ、一方2025年現在においてGCAPの配備時期は2035年頃とアナウンスされています。
両機がどのような姿になるのか――。その大枠は明らかになりつつあるといえるでしょう。FCASは2019年からフランス・パリでの国際航空展示ショーで同じ実物大模型が展示され、GCAPの実物大模型は2024年7月にイギリスで2024年7月に初めて公開されました。
しかし一方で、計画自体はFCASの方が早くスタートしていますが、海外の報道では、フランスとドイツの主導権争いが顕在化して遅れが懸念されているとのことです。2025年7月にもフランスがドイツ・スペインへ作業分担(シェア)の再考を提案、フランス側が80%の作業分担を要求したとされてもいます。
戦闘機の国際共同開発はこうした分担割合や知的財産の所有が関係国間の争いになりやすく、FCASもこれまでの合意条件が変わると遅れが生じ、次の段階で予定している技術実証機の製造に影響があるうえ、最終的に戦闘機の配備時期が遅れる指摘が出ています。
こうして見ると、パリ航空ショーで設計の変更などを反映せず変わらぬ姿のまま展示され続ける実物大模型は、計画の遅れを象徴しているようにも見えてきます。
一方、GCAPはイギリスで技術立証機の製造が進んでいます。
製造を行うイギリス拠点の大手防衛企業、BAEシステムズは2024年8月に製造へ入ったことを公表し、2025年7月には、構造物重量に換算すると3分の2の製造が進行中と発表しています。イギリスの技術立証機は、エンジンこそタイフーンと同じ「EJ200(推力約6200kg)」を用いるため、本来GCAPが想定する推力より低いものの、ミサイルなどを格納する兵器倉も備えています。つまり、英国の技術立証機はGCAPで使う技術の有効性を実際に飛んで確認できるのです。
これを見れば、GCAPはFCASより進んでいると思われます。ただし、ここで日本が注意しなければならないのは、イギリスの技術立証機は同国の資金で賄われ、さらに製造も同国で進められていることです。
GCAPに向けた技術立証機の製造をイギリスが発表したのは2022年7月。GCAPの共同開発が公表される5か月前でした。このため技術立証機の製作はイギリス国内で進められるのは当然で、さらに得た成果がGCAPに反映されるのも当たり前のことです。そして、これも当然なのは、どの国も開発と生産に関して拠出した費用を“回収”し、生産時の雇用を自国内で確保したがります。そのため、イギリスは技術立証機の成功如何では、GCAPの開発において大きな優位性を持ち、発言力を強めるでしょう。
この状況を日本はどう受け止めればよいのでしょうか。
GCAPの全体の開発がFCASより進んでいるのは日本にとっては安心できる反面、イギリスの技術立証機の成果如何では、GCAP内での“立場”にやきもきする場面が出てこないとも限りません。日本はイギリス・イタリアとともにFCASチームに負けず開発をけん引しつつ、さらにGCAPチーム内での立ち位置を確保し続ける難しい運営に挑み続けなければならないのです。そのためにも日本は、FCASの動向を監視し、何が遅れの、或いは進展の背景になっているか探りつつ参考にしていくことが欠かせないでしょう。