埼玉県深谷市にある、深谷駅(JR東日本・高崎線)はその外見が東京駅の駅舎とそっくりなことで知られています。なぜこのようなことになったのでしょうか。
【写真】えっ…これが「東京駅そっくり駅」のあまりに“瓜二つ”な全貌です
東京駅は1914年に赤レンガ造りのモダンな建築様式で作られ、その外観は現在の駅舎にも残されており、東京の鉄道を象徴する存在として知られています。一方、深谷駅は線路の上に跨がる橋上駅舎ですが、その外観は赤レンガ風のタイルで覆われ、屋根や窓などもモダン風な装飾が施され、東京駅のデザインを精巧に再現しています。
その外観から「ミニ東京駅」とも呼ばれており、深谷市の観光名所にもなっています。
深谷駅が現在の外観に改装されたのは1996年のことですが、その理由は「有名駅のマネをした」という単純なものではなく、本家東京駅と深谷市に、密接な歴史的な繋がりがあるのです。
1888年、当時の上敷免村(現在の深谷市北部)に、日本初の大規模機械式煉瓦(レンガ)工場が建設されました。設立したのは日本煉瓦製造株式会社で、その創業者は現在の1万円札の肖像にも採用されている渋沢栄一です。
この地が選ばれた理由は、レンガの原料となる良質な粘土が豊富に採取できたこと、そして近くを流れる小山川をレンガ輸送に利用できたことでした。
最盛期には6基の窯が24時間体制で稼働し、全国各地にレンガを出荷しました。その中でも代表的な建築物が、1914年に建設された東京駅です。同駅の建設においては、深谷市で製造されたレンガが 833万2千個も使用され、それは使用総数の大半を占めました。
このほかにも、深谷産レンガは法務省(旧司法省)、日本銀行、旧東京裁判所、旧東京商業会議所、赤坂離宮、旧警視庁、旧三菱第2号館、東京大学などにも用いられ、明治期の近代建築を資材面から支えました。
現在も深谷駅に残る鉄道遺構また、深谷駅自体も東京駅建築やレンガ工場自体の物流拠点として活躍しています。
東京駅の丸の内駅舎(画像:PIXTA)
2025年現在はレンガ工場が閉鎖されたため、専用線は撤去されていますが、その跡地は「あかね通り」として遊歩道・自転車道に整備されています。また、途中にあった福川に架けられた福川鉄橋は、日本最古のプレートガーダー橋として移設・保存され、現在は「ブリッジパーク」として公開されています。
レンガ工場の敷地内には、レンガ製造に使用されたホフマン輪窯や事務所、変電室なども現存し、以前は見学も可能でした(現在は修復工事中で、令和9年度中に再公開予定です)。
このように深谷市は、レンガ製造という歴史を通じて東京駅と深いつながりを持っています。その市の玄関口である深谷駅が「ミニ東京駅」となったのも、単なる模倣ではなく、むしろ“本家”としての誇りが込められているといえるでしょう。
駅周辺には当時の赤レンガで作った建築物がいくつか残っており、もし深市を訪れた際には、駅舎を見るだけでなくこれら歴史的名所や「あかね通り」の線路跡を散策するのもオススメです。