アメリカ企業が目立った台湾防衛展示会

 2025年9月17日から20日までの4日間、台湾の台北市に所在する大規模イベント会場「台北南港展覧館」で、防衛・セキュリティの総合イベント「TADTE」(Taipei Aerospace & Defense Technology Exhibition/台北國際航太曁國防工業展覽會)が開催されました。

【「幽霊」ドローンって?】これがアンドゥリルの無人装備です(写真)

 中国語のイベント名に「国際」の二文字が入っているように、TADTEは国際展示会という位置づけなのですが、日本を含めた大多数の国は台湾を国家として承認していないため、簡単に台湾へ防衛装備品を輸出することはできません。

このためBAEシステムズや、非武装のUAS(無人航空機システム)を出展したエアバスなどを除けば、ヨーロッパやアジア諸国の防衛企業の出展は多いとは言えず、「DSEI Japan」など、他のアジア諸国で開催されている防衛装備展示会に比べると、「国際」感は薄れます。

 他方、アメリカは1979年に成立した台湾防衛法により、台湾への防衛装備品を輸出することができます。このためTADTEでもアメリカ企業の出展が目立っていましたが、台湾防衛法では台湾に輸出可能な防衛装備品を「台湾防衛用」と定義しているため、ロッキード・マーチンやノースロップ・グラマンやRTXなども、台湾が導入を望んでいる最新鋭の防衛装備品の展示は行っておらず、国際防衛装備展示会としては、やや寂しい印象を受けたことは否めません。

 その一方で、単独のブースこそ出展していないものの、台湾で防衛装備品の研究開発を行っている中山科学研究院と防衛装備品の共同開発を行っているアメリカ企業が、中山科学研究院と台湾軍のブースで開発中の最新防衛装備品の展示を行い、大きな存在感を示していました。

 そんなアメリカ企業の一つが、アンドゥリル・インダストリーズ(以下アンドゥリル)です。

「VRの立役者」が設立した防衛スタートアップ

 アンドゥリルはVR(仮想現実)ヘッドセットブランド「Oculus」(現・Meta Quest)の創業者であるパルマー・ラッキー氏と、トレイ・スティーブンス氏によって2017年に設立された、防衛スタートアップ企業です。

 ラッキー氏の前歴が物語るように、アンドゥリルは安全保障用途のソフトウェアやシステムの開発を目的に設立された企業です。

 アンドゥリルは2018年に、アメリカ政府へ南部国境における人身売買と麻薬密輸を検出するためのパイロットプログラムを納品しています。このプログラムは運用開始から最初の12日間で55人の人身売買と麻薬密輸の容疑者の検出に成功。これによりアンドゥリルの技術力の高さは、いちやく世に知られることとなりました。

飛ぶ鳥を落とす勢い?

 その後もアンドゥリルはアメリカ空軍の戦闘管理システムなどのソフトウェアを手がける一方で、無人防衛装備品の開発にも進出しています。

「無人の潜水艇」に「AI魚雷」 日本とも連携する米の“大物”...の画像はこちら >>

アンドゥリル創業者パルマー・ラッキー氏(左)とMetaのマーク・ザッカーバーグ氏。
両者は共同で米軍のXR導入支援を表明している(画像:Anduril)

 アンドゥリルが自社で開発したUAS(無人航空機システム)の「ゴースト」は、イギリス海兵隊から高く評価されました。この評価に自信を得たアンドゥリルは2021年、アメリカ軍やNASA(アメリカ航空宇宙局)などからの契約を得てUAS(無人航空機システム)の開発を手がけていた企業「エリアI」を買収しました。

 同社の持っていたUAS開発技術を得て、アンドゥリルの無人装備品開発はさらに加速。2025年3月には同社の提案がアメリカ空軍のCCA(共同交戦航空機)に採用され、同空軍からYFQ-44Aとして採用されるに至っています。

台湾、そして日本にも関係構築

 アンドゥリルはアメリカ軍、アメリカ政府向けにソフトウェアやシステム、無人装備品などの供給を手がける一方で、アメリカ以外の国の企業や研究機関との共同研究や共同開発も積極的に進めています。

 2025年6月にはドイツの大手防衛装備品メーカーであるラインメタルと、ヨーロッパ向けの自律型航空機システムおよび先進的な推進技術を共同開発する戦略的パートナーシップを締結しています。

 台湾の中山科学研究院との共同開発・研究がいつごろから行われていたのかは判然としませんが、今回のTADTEでも低コストの巡航ミサイルや、大型無人潜水艇、AI(人工知能)技術を取り入れた魚雷などの展示が行われています。アンドゥリルと経営幹部は2024年に、台湾への防衛装備品売却を咎められて制裁を受けていますが、同社は意に介さず台湾への関与を進めていくようです。

 実のところアンドゥリルは日本への進出にも高い関心を示しており、2023年5月には住商エアロシステムなど日本の商社3社と、日本の安全保障分野における協業の覚書を、同年7月には防衛省との間で、海上自衛隊が同社製品を活用した指揮統制における実証に向けた契約を、それぞれ締結しています。

 現時点でアンドゥリルの製品やサービスの採用は、この一例だけのようですが、同社の持つシステムと無人装備品の技術は、日本の防衛力を高める上で必要だと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思いますし、今後はロッキード・マーチンなどと同様、日本にとって馴染みの深いアメリカの防衛企業になっていくのではないかと思います。

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