東京都文京区にある「東京ドームシティ・プリズムホール」において2025年12月17日と18日の二日間にわたって、陸上自衛隊が主催する「Landpower Forum in Japan(LFJ)」が開かれました。
【意外と広い!?】これが高高度ガス気球のキャビン内部です。
本フォーラムは、産官学および同盟国・同志国との連携強化、さらには陸上防衛力整備に関する取り組みの共有を目的としたものです。会場には民間企業88社が出展し、最新技術の展示が行われました。
その中で、会場西側の出入り口近くにブースを構えていたのが、北海道江別市に本社を置く岩谷(いわや)技研です。
岩谷技研は2016年4月に設立された宇宙開発関連のスタートアップ企業です。同社は気球による「宇宙遊覧フライト」の実現を目指し、気密構造の与圧キャビンやスーツ、打ち上げ機器、長距離通信装置などの自社開発を手がけています。
すでに2024年7月には、北海道十勝地方にて有人フリーフライト試験を実施。気球による有人飛行としては国内初となる、最大到達高度2万816mの成層圏に到達するという偉業を成し遂げました。
こうした実績を背景に、同社は高高度ガス気球を用いた無人事業の展開も進めています。有人カプセルの代わりに通信機器や監視システム、情報収集装置などを搭載すれば、通信インフラ、気象観測、防災、そして安全保障分野への転用が可能です。
実際、担当者によると、すでに航空自衛隊から高高度標的用として受注しているほか、防衛省や防衛装備庁、大手重電・重工メーカー、ロケット打ち上げ事業者などとの受託実績があるといいます。
そこで、高高度ガス気球のメリットについて伺うと、次の3点を挙げていました。
ロケットよりも低コスト、航空機よりも高高度OK岩谷技研が高高度ガス気球のメリットとして挙げていたのは、以下の3点です。
2024年7月17日に行われた有人フリーフライト試験で到達した高度2万816mの窓外の風景。このときの飛行距離は41k、飛行時間は4時間56分であった(画像:岩谷技研)。
低コスト:ロケットや人工衛星と比較して、圧倒的に安価な運用が可能。
即応性:打ち上げ準備(リードタイム)が短く、放球後わずか1~2時間で高度2万mに到達する。
柔軟性:観測・通信・実験など、ミッションに応じて多様な機器を搭載できる(多用途性)。
UAV(無人航空機)やドローンを含む航空機は運用の自由度こそ高いものの、航続距離や高度に限界があり、成層圏(高度20km付近)を長時間飛び続けるのは困難です。そういった点で、高高度ガス気球は、人工衛星と航空機の間に存在する「高高度の空白域」を補完するキャリアとして、極めて高い将来性を持っています。
岩谷技研は、成層圏(高度20~25km)に簡便にアクセスできる唯一無二のキャリアとして、最大1t程度のペイロードを、低コストで打ち上げ可能にすることを目標に掲げています。
2023年に北米上空を飛行した中国の気球が国際的な議論を呼んだことは記憶に新しいですが、それゆえに高高度気球の有用性と脅威への対処は、防衛当局にとっても急務の課題となっています。
近い将来、高高度ガス気球は人工衛星や航空機と並び、官民双方で欠かせないインフラ、そして「装備品」として重用される存在になっているかもしれません。

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