8年ぶり受注は九州郵船向け

 新たなエンジンを搭載した「ジェットフォイル」の建造が決まりました。川崎重工業は2025年11月、九州郵船(福岡市)が博多―壱岐―対馬航路に投入する「川崎ジェットフォイル」1隻の建造契約を結んだと発表。

川重にとって新造ジェットフォイルの受注は8年ぶり。同船は神戸工場で建造し、2029年6月の引き渡しを予定しています。

【スゴい爆速…】海を「飛ぶ」ジェットフォイルの“走り”写真で見る!

 今回、建造が決まったジェットフォイルは九州郵船と鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の共有建造船で、1985年に建造された「ヴィーナス2」を代替します。航海速力は43ノット(約80km/h)。旅客定員は252人です。九州郵船では1991年に就航した「ヴィーナス」以来、川重では2020年6月に竣工した東海汽船の「セブンアイランド結」以来となります。

 その俊足ぶりでは他の追随を許さないジェットフォイルは、長らく受注が途絶えていたため技術伝承が課題でした。関係者は「既存のジェットフォイルのメンテナンスで維持・整備を手掛けることによって、技術を絶やさないようにしてきた」と話します。

そもそも「ジェットフォイル」ってどんな船?

 ジェットフォイルは全没翼型水中翼旅客船といい、その名の通り全没型の水中翼に働く翼揚力を利用して、船体を完全に海面上へ持ち上げて高速で航走する船です。ジェット機は、高温ガスを噴出させて推力を得ているのに対し、ジェットフォイルは海水を高圧噴射することで高速力を発揮します。

 同船の原動力は1基当たり3800馬力の高出力を誇る2基のガスタービンエンジン。減速ギアを介して駆動するウォータージェット推進機が、1分間におよそ180トンもの海水を吸い込み、強力なウォータージェットを船尾ノズルから後方に噴射することで推力を得ています。

自動姿勢制御装置(ACS)がセンサーからの情報を基に、常に船体のピッチング、ローリングといった回転運動による動揺を制御しているため、乗り心地が良く船酔いをしません。また、波高3.5mの荒波でも安定した航走ができ、航空機と同じように船体を内側に傾斜させることでスムーズな旋回が可能です。

「ジェットフォイル」は米ボーイングの商標です。元々はボーイングが航空機の技術を水上に適用して開発した「ボーイング929」で、1987(昭和62)年に川崎重工業が製造と販売の権利を得て以降は、「川崎ジェットフォイル929-117型」として製造されています。

 通常の高速船は投入できない海象条件の厳しい航路でも高速で航行できることから、日本では主に離島航路に就航しており、地域住民や観光客の足として活躍しています。

船価が高すぎて…

 一方でネックとなっているのが高額な船価と維持費、そしてエンジンです。

 川重は1989年から1995年までに15隻のジェットフォイルを建造しましたが、その後「セブンアイランド結」の建造まで25年間の期間が開いています。ジェットフォイルは40年程度使用できるとされているものの、電気系統の劣化や各種部品の老朽化に伴う交換などで、高額な修繕費用がかかっています。他の船と比べて燃料消費量も多く、こうした負担が船社の経営を圧迫しています。

 船価に関しても「セブンアイランド結」では51億円だったものが、九州郵船の新造船では80億円超まで上昇したとされています。

 ガスタービンエンジンについても、「アリソン501-KF」がロールスロイスでの製造を終えており、新たに生産体制を構築するには複数ロットでの同時発注を行う必要がありました。このため、セブンアイランド結はエンジンの新造はかなわず、既存船から流用しています。

さらに船体の長さや主機関のサイズ変更などもできないため、航路の需要に応じて柔軟な対応もできません。

まさかの新型エンジン搭載の裏側

 しかし、川重が建造する九州郵船のジェットフォイルでは新型ガスタービンが搭載されることになりました。米ベリコアパワーシステムズ(VERICOR)の「TF-50B」を2基搭載します。

「爆速だけど“ものすごく高い”船」ジェットフォイルついに新造...の画像はこちら >>

東海汽船の「セブンアイランド愛」。建造から45年の2025年8月、老朽化により引退した(深水千翔撮影)

 ベリコアのTFシリーズは、スウェーデン海軍のヴィスビュー級コルベットやメガヨットなどに採用されているほか、LCACの名前で知られる海上自衛隊のエアクッション艇1号でも使用されています。

 また、「TF-50B」は英グリフォン・マリン(旧グリフォン・ホバーワーク)が開発している輸送用ホバークラフト「ワイバーン」に搭載されることになっています。同社では海自にLCACの後継として「ワイバーンJ」を提案しており、安定的なエンジンと部品の供給が見込める可能性があります。

「継続的な運用を考えると、30年以上前の部品は入手しにくい。今後のエンジン・メンテナンスの調達性、持続性を考えると新しいエンジンが最適だ」(関係者)

 80億円超という新造船価は、JRTTの船舶共有建造制度を活用。九州郵船が半分を負担し、残りは国と就航地の長崎県と壱岐市、対馬市が補助する形になりました。

 川重は今後も、国内の離島航路をはじめとする高速海上交通の維持・発展のため、ジェットフォイルの建造に積極的に取り組んでいくとしています。

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