海自次世代イージス艦 どうなる搭載レーダー

 北朝鮮による度重なる弾道ミサイルの発射や、中国の軍事力増強および海洋進出など、日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しています。そうした状況に対応すべく、日本周辺の海空域に目を光らせているのが、海上自衛隊のイージス艦です。

【メカメカしい…】SPY-6とSPY-7の製造現場を写真で(画像)

 イージス艦とは、高度な対空戦闘指揮システムであるイージス・システムを搭載した艦艇のことで、海上自衛隊ではこれを8隻保有しています。このうち、最も古いのが4隻のこんごう型護衛艦です。1番艦「こんごう」が1993(平成5)年に就役し、最終番艦である4番艦「ちょうかい」も1998(平成10)年に就役と、4隻とも艦歴30年前後となっています。

 一般的に、海上自衛隊では艦艇の退役時期の目安が就役から40年と言われます。そこで、こんごう型に関してもその後継艦建造に関する動きが進みつつあります。

 たとえば、令和7年度防衛予算で33億円が盛り込まれた「イージス艦に関する調査研究」がその1つです。防衛省の説明によると、これは「こんごう型イージス艦の除籍に伴う後継艦等検討」のための技術調査とのこと。具体的には、搭載するイージス・システムおよびレーダーに関する調査を行っているようです。

 なかでも、水面下でさまざまな動きが見られるのが、搭載するレーダーについてです。現在のところ、こんごう型後継艦に搭載が見込まれるレーダーとして、次の2つの名が挙げられます。すなわち「SPY-6」と「SPY-7」です。

 SPY-6はアメリカのRTX社(旧レイセオン・テクノロジーズ)が、SPY-7は同じくアメリカのロッキード・マーティン社がそれぞれ開発した最新鋭の艦載レーダーで、両者はいくつかの共通点を有しています。

 第一に、イージス艦がこれまで搭載してきたSPY-1Dレーダーと比較して、電波出力向上などにより探知距離がSPY-6では約3倍、SPY-7は約3.3倍と大幅に向上しているといいます。一般的に、SPY-1Dの探知距離は約500kmといわれていますから、SPY-6もSPY-7もおおむね1500km程度の探知距離を有していると考えられます[洋中1.1]。

 第二に、レーダーのサイズを自在に変更できます。SPY-6では「レーダーモジュラーアッセンブリ(RMA)」、SPY-7では「サブアレイスイート(SAS)」と呼ばれる電波送受信モジュールをそれぞれ組み合わせることで、一つのレーダーを構成しています。言い換えるならば、小さなレーダーの集合体がSPY-6とSPY-7というわけです。これにより、搭載する艦艇の発電能力や求められるレーダー性能などに応じて、電波送受信モジュールの数を変更することでサイズを自在に変更できます。

 また、従来のSPY-1Dであれば、レーダーアンテナの一部が損傷しただけでもその機能が大きく損なわれてしまうところ、SPY-6とSPY-7であれば、損傷したモジュールをレーダー背面から交換するだけで修復が可能となっており、維持整備の面でも大きなメリットがあります。

似ているようで違う2種のレーダー「独自のメリット」とは

 そして第三に、能力向上が容易である点です。SPY-6もSPY-7も、ともに実装されているソフトウェアによって動作するレーダーシステムであるため、ハード(レーダーを物理的に構成する部品)に変更を加えることなく、レーダーを動かしているソフトウェアをアップデートして能力向上を図ることができます。

海自「最古参の防空艦」ついに後継艦の動き イージス・システム...の画像はこちら >>

アメリカ海軍の最新鋭イージス駆逐艦「ジャック・H・ルーカス」。SPY-6(V)1を搭載するアーレイバーク級フライトIIIの1番艦(画像:アメリカ海軍)。

 つまり、何か新たな脅威が登場した場合や、新しい機能を実装しようとする場合、ソフトウェアを更新することで迅速に対処することができるというわけです。

いわばスマートフォンをアップデートするだけで、機器自体に手を加えずとも新たな機能が実装されるのと同じです。

 それでは、逆にSPY-6とSPY-7がそれぞれ有する独自の特徴としては、どのようなものが挙げられるのでしょうか。

 まず、SPY-6に関しては「アメリカ海軍の次期標準レーダー」であるという点が挙げられます。SPY-6は、アメリカ海軍の最新鋭イージス艦であるアーレイバーク級駆逐艦フライトIIIをはじめ、強襲揚陸艦や輸送艦、空母、フリゲートなど8艦種60隻以上への搭載が予定されています。ちなみに、2025年12月に突如建造が発表されたトランプ級戦艦にも、RMAが37個で構成されるSPY-6(V)1が搭載されることが明かされています。

 このように、SPY-6は今後建造が計画されているほぼすべての水上戦闘艦艇への搭載が予定されており、まさにアメリカ海軍の次期標準艦載レーダーといえます。それゆえ、仮に海上自衛隊がSPY-6を導入した場合、有事の際には日米間で部品等を共有することができます。

 これに関連して、アメリカ海軍用SPY-6の部品製造に日本企業の三菱電機および三波工業が参画することが決定しており、これを基軸として、将来的には日本にリージョナルデポが置かれることも考えられます。そうなれば、日米共同で部品の製造や備蓄、さらに維持整備を実施できるでしょう。

 加えて、「アメリカ海軍との共同購入」も挙げられます。これは、ある国が対外有償軍事援助(FMS)の一環としてSPY-6を購入する場合、それをアメリカ海軍が導入するSPY-6とセットで発注するというもの。こうすることで、SPY-6を一度にまとめて購入する形になるため、単価を低く抑えることができるわけです。

SPY-7の強みは「採用実績」

 一方で、SPY-7は「すでに日本における採用実績がある」という点、そして「独自技術によるユニークな機能の実装」という点がメリットとして挙げられます。

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2025年5月に千葉県幕張メッセで開催された「DSEI Japan 2025」のロッキード・マーチンブースに展示されたイージス・システム搭載艦の模型(乗りものニュース編集部撮影)。

 まず前者に関しては、海上自衛隊で2027年度に1番艦の就役を予定している「イージス・システム搭載艦(ASEV)」計2隻の艦載レーダーとしてSPY-7は導入が決定しています。すでに1番艦用はアメリカ本国の工場で製造が完了し、今年度中にはイージス・システムと連接しての運用試験が実施される予定です。

 よって、仮に海上自衛隊がさらにSPY-7を導入することを決定した場合には、今後整備が進められる維持整備や教育など運用に関わる基盤をそのまま流用できます。さらに、SPY-7に関しても、日本企業から富士通が部品製造に参画することが決定しており、将来的に維持整備は日本国内で実施することも視野に入ってくるでしょう。

 そして、後者の独自技術には、SPY-7において実装されている「多重偏波(polarization diversity)技術」が関係してきます。これは、複数の方向に振動する電波を送受信することにより、従来よりも多くの情報を取得できるというものです。これにより、SPY-7は目標を画像のように探知し、囮弾頭と真弾頭とを識別できるなど、優れた探知・識別性能を発揮できるといいます。

単なる「後継艦用」ではなく「10隻分」の契約になるかも…そのワケ

 このように、いずれも優れた性能と特徴を有するSPY-6とSPY-7ですが、じつは今回のこんごう型後継艦に関する調査は、単純に4隻の護衛艦を置き換えるための新型護衛艦に搭載するレーダーというだけではなく、より大きな文脈でとらえる必要があります。

 というのも、防衛省によると今回の「イージス艦に関する調査研究」は、こんごう型後継艦に加え、海上自衛隊が増勢を予定する追加2隻のイージス艦のイージス・システムおよびレーダーに関しても調査対象としています。この追加2隻のイージス艦とは、2022年に日本政府が策定したいわゆる「安保3文書」のうち、防衛力整備計画において明記されたもので、つまり海上自衛隊は今後10隻のイージス艦(ASEVを含めれば12隻)を保有することになるのです。

 さらに、海上自衛隊の既存のイージス艦であるあたご型およびまや型に関しても、搭載するレーダーを換装する「バックフィット改修」を行う可能性が取りざたされています。これは、ドックに入渠して行われる定期検査の際に、現在搭載されているSPY-1Dを取り外して、そこに新型のレーダーを取り付けるというものです。

 このバックフィット改修用レーダーとして、RTXは「SPY-6(V)4」、ロッキード・マーティンは「SPY-7(V)5」と呼ばれるバージョンをそれぞれ用意しています。筆者(稲葉義泰:軍事ライター)が取材したところ、いずれのメーカーも海上自衛隊のイージス艦に関するバックフィット改修には非常に前向きで、積極的なアピールを行っています。

 こんごう型後継艦の搭載レーダーに見事選定されたものは、最大で10隻分の搭載レーダーとして選定される可能性を秘めているわけです。

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