JRきっぷで乗れるバス

 本数が少ない赤字ローカル鉄道を補完するため、沿線の人気スキーリゾート地域と新幹線駅と結ぶ「臨時バス」が運行されています。訪日客らに重宝されている一方、“本丸”であるはずの鉄道の行方が視界不良になっています。

【勝負にならん…?】これが大糸線の「列車の代わりに乗れるバス」です(地図/写真)

 JR東日本JR西日本にまたがり、長野県の松本と新潟県の糸魚川を結ぶローカル線「大糸線」の沿線には有名なスキーリゾート地の長野県白馬村があり、インバウンド(訪日客)が押し寄せています。しかし、北陸新幹線と接続する糸魚川と白馬(白馬村)を移動できるのは普通列車を乗り継いでの7往復しかなく、移動時のボトルネックとなってきました。

 対策としてJR東日本、JR西日本、長野、新潟両県と沿線自治体などでつくる「大糸線活性化協議会」は、観光シーズンに「JR大糸線増便バス」という名称のバスを糸魚川と白馬の間で走らせています。スキー客が多い2025年12月―26年3月の期間には、12月中旬まで土休日のみ、12月下旬以降は3月31日まで毎日、それぞれ3往復させています。

 JRのきっぷを持っていれば、予約せずにバスを利用できます。列車の場合はJR東日本と西日本の境界でもある途中の南小谷(長野県小谷村)で乗り継ぎが必要なのに対して一本のバスで移動でき、所要時間は1時間半と、大半の列車より短時間で結びます。バスの場合、スキー場や宿泊施設が集まっているエリアの白馬八方バスターミナル(白馬村)に停車するのも利点です。糸魚川では北陸新幹線との乗り継ぎもよく、利用した人からは「便利だった」との評価が出ています。

 現地を訪れた筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は「JR大糸線増便バス」の認知度が高まれば、利用者数が低迷している鉄道に代わって主役の座に躍り出る可能性があると実感しました。

 2024年度(2024年6月―25年3月)のバスの累計利用者数は2万3317人と、目標の3万人の約77%にとどまりました。しかし、25年度は列車よりも乗客数が多いバスも出ており、もしも定着すれば鉄道は“ひさしを貸して母屋を取られる”ことになりかねません。

訪日客数が浮上も、沈んだ鉄道利用

 シンクタンクの研究員が筆者に対して「パウダースノーでスキーを楽しめる日本のスキーリゾートは訪日客の人気を集めており、ブームの火付け役になった北海道ニセコ村に続いて白馬村も人気が急上昇している」と指摘した通り、白馬村を訪れる外国人旅行者数はうなぎ登りで推移しています。

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降雪後の白馬駅の駅舎外観(大塚圭一郎撮影)

 白馬村によると、2024年の外国人観光客延べ宿泊者数は44万7474人と前年より77.2%増えました。国別で最多なのがオーストラリアからの19万9885人で全体の44.7%を占めた一方、中国からは1万78人と全体の2.3%にとどまっており、日中関係悪化による訪日客数減少の打撃が限られるのも強みです。

 しかしながら、沿線の鉄道利用者数は低迷が続いています。大糸線のうちJR西日本が管轄している糸魚川―南小谷間の平均通過人員は1日当たり150人、JR東日本の南小谷―白馬間は同234人と、路線の将来について国や自治体、運行事業者が話し合う協議会を設置する目安となる同1000人を大きく下回っています。糸魚川―南小谷間は2022―24年度の平均で、100円の収入を得るのに2132円の経費がかかりました。

 冬の行楽シーズンに訪れた筆者は、白馬駅前の喫茶店が早朝6時半過ぎなのに外国人客で満席になっているのに驚きました。ところが白馬6時55分発の南小谷行きステンレス製電車E127系100番台に乗ると、2両編成の車内に外国人は皆無でした。地元利用者もごくわずかで、途中駅では乗降客がありません。プラットホームの端に雪が積もった南小谷へ定刻の7時14分に着きました。

 南小谷から北は非電化区間となり、JR西日本がディーゼル車両キハ120形で運行しています。筆者が気がかりだったのは、積雪の中で列車が予定通り走るかどうかでした。というのも、前日は降雪のため全列車が運休したからです。

 幸いにも平岩(糸魚川市)発南小谷行きの2両編成のキハ120形は定刻の7時20分より遅れたものの到着。折り返しの糸魚川行きとなり、座席がほぼ埋まった状態で出発しました。

 雪深い中で列車は、フォッサマグナの西縁(糸魚川・静岡構造線)に沿って流れる姫川と並走します。列車が姫川を渡って左岸に出ると、しっかりとした道が敷かれているのが見えました。これが「JR大糸線増便バス」の運行経路となっている国道148号で、長野県大町市と糸魚川市を結ぶ片側1車線の道路です。

 国道148号の制限速度はおおむね60km/hです。これに対し、線路規格が簡易線扱いで線形も悪い大糸線は“必殺徐行”と揶揄される制限速度25km/hの区間もあります。

 乗車時は8時36分に糸魚川駅へ到着。定刻より3分遅れたものの積雪に見舞われた中での運行としては奮闘しました。

三セク化は困難で、向かうは?

 筆者が乗った列車は80人程度が乗車していたため、1台のバスで運行している「JR大糸線増便バス」ならば乗り切れない状況でした。この場合には鉄道の持ち味である大量輸送を発揮しましたが、大糸線は大きな岐路に立たされているのが実情です。

「列車の代わりに乗れるバス」に勝ち目なし? 鉄道の存続危うし「自治体も消極的」の声 インバウンド“年45万人”来訪の沿線
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南小谷駅の駅名標とJR東日本のE127系100番台(大塚圭一郎撮影)

 JR西日本が自治体側に「大量輸送という観点で鉄道の特性を発揮できるレベルには至っていない」と通告した糸魚川―南小谷間、およびJR東日本の南小谷―白馬間がバス転換に向かいかねない理由は大きく分けて三つあります。

 一つ目は、大部分の列車が空気を運んでいるためです。大糸線活性化協議会によると、南小谷―糸魚川間の1列車当たりの平均利用者数は多客期の2024年12月が5.7人、25年1月が11.4人で、だいたいの列車は1台のバスで代替できます。バス運転手を十分確保し、利用者が多い場合には1便にバス2台を用意できるようならば置き換えられます。

 二つ目として、大きなターゲットとなる訪日客を含めた白馬のスキー場来場者が使うには、糸魚川まで一本で移動でき、白馬八方バスターミナルにも立ち寄るバスの方が列車よりも利便性が高いためです。

 そして残る一つは、大糸線沿線の自治体などでつくる「大糸線利用促進輸送強化期成同盟会」の振興部会が2025年10月31日の会合で、持続可能な交通体系の在り方について2026年度中に結論を取りまとめる方針を確認したためです。

 もしも鉄道として残す場合には第三セクター鉄道への転換や、行政側が線路などの施設や車両を保有してJR側の負担を軽減する上下分離方式への移行が選択肢になります。ところが、地元の運輸関係者は「財政負担が重くなる自治体側は、今のところ消極的な姿勢を示している」と明かします。

 これら3点を踏まえると、十分な運転手を確保できる場合には「持続可能な公共交通」としてバス転換の道を進む可能性をはらんでいます。まるで雪が積もった後のように大糸線の鉄路の行方が視界不良になり、「JR大糸線増便バス」が「JR大糸線代替バス」へと置き換わりかねない正念場を迎えています。

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