通行に安全面などで注意が必要な国道は、愛好家のあいだで「酷道」と呼ばれますが、そもそもクルマが通行できない国道も存在します。地形図上では点線で表されることから「点線国道」と呼ばれますが、その実態はどのようなものなのでしょうか。

青森のあの国道も「点線国道」

 国の重要な道路であるはずの国道。そのイメージとは裏腹に、細く、すれ違いも困難で、走行にはいろいろな意味で注意が必要な道を、国道ならぬ「酷道」と呼び、好んで走る人もいます。

 その「酷道」以上に難易度が高い国道が存在します。それは「点線国道」と呼ばれるもので、国道であるにも関わらず車両の通行ができない区間だといいます。実態はどのようなものなのでしょうか。国道にまつわる新書『国道の謎』(祥伝社)の著者であり、ムック『酷道をゆく』(イカロス出版)の執筆者陣にも名を連ねる国道愛好家の松波成行さんに話を聞きました。

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国道289号「甲子(かし)峠」区間にあった国道標識(おにぎり)。2008年に国道指定が解除され、撤去された(松波成行撮影)。

――「点線国道」とは、具体的にどのような道路なのでしょうか?

 国土地理院の地形図において、幅員1.5m未満の登山道などを示す表記と同じ点線でルートが示され、かつその点線に国道の表記もなされている区間です。厳密には2017年現在で6路線ですが、登山道のような道すら存在しない計画上の区間も含め、広い意味で「車両通行不能区間」の国道を指す言葉として使われています。「酷道」のなかでも“最凶”のものといえるでしょう。

これが本当に国道? その驚きの実態

――その点線部分は、本当に国道の一部なのでしょうか?

 国道指定がなされている点線部分はれっきとした国道の一部ですが、現地に「おにぎり」と通称される国道標識などが設置されることはほとんどありません。

現状で点線国道に「おにぎり」があるのは、「階段国道」として有名な青森県の国道339号のみです。

――点線区間の実態はどのようなものでしょうか? 踏破できますか?

 国道339号「階段国道」を除く点線区間の多くは、登山道といえるでしょう。長野県にある国道256号「秋葉街道」の点線区間や、新潟・福島県境に位置する国道289号の「八十里越(はちじゅうりごえ)」区間は、江戸時代の難路がそのまま残されています。群馬・新潟県境の谷川連峰を越える国道291号「清水峠」区間は、明治時代に「高規格道路」として開削されながら自然災害によって機能を果たさなくなり、部分的に廃道と化し、現在では谷川岳の登山者などが利用する程度です。

道ならぬ道も? 「点線国道」! 階段ほか、「酷道」以上に高難易度な国道とは?

国道291号「清水峠」区間周辺の案内板。点線の上に国道のマークが描かれている(松波成行撮影)。

 究極は和歌山県にある国道371号の点線区間でしょう。地図上では点線で示されていますが、登山道として造成された痕跡すら見られない区間もあります。したがって、点線区間は“踏破”できるかと問われれば、非常に困難と言わざるを得ません。

消えゆく「点線国道」 2023年にはまたひとつ?

――点線国道は今後、なくなっていくのでしょうか?

 点線区間はあくまで暫定的に指定された区間であり、そもそもが消えゆく運命にあります。長距離の点線区間が消滅した直近の事例としては、2008(平成20)年に廃止された福島県の国道289号「甲子(かし)峠」区間があります。ここは“登山道国道”として有名で、登山道脇に設置されていた「おにぎり」の立ち姿がシュールなことから人気でしたが、クルマが通れる国道289号「甲子道路」が開通したその日に登山道のほうの国道指定が解除されたことで撤去され、インターネット上ではこれを惜しむ声も多くみられました。

 今後なくなるものとしては、同じく国道289号のもうひとつの点線区間である「八十里越」区間が筆頭の候補です。2023年度に新道の開通が見込まれています。

道ならぬ道も? 「点線国道」! 階段ほか、「酷道」以上に高難易度な国道とは?

新潟・福島県境に位置する国道289号「八十里越」区間。建設中の新道はこの区間をトンネルで越える(松波成行撮影)。

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「点線国道」のほとんどは、国道であったとしても実質は登山道、あるいは道として整備されておらずほとんど自然に還っているような険しい道のりで、それぞれの両端は公共交通機関も皆無だといいます。松波さんは、もしも通行を試みる場合は「油断や慢心が事故や遭難にもつながるので、計画を事前に立案し、季節の選択とそれに応じた十分な登山装備が必要です」と話します。

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