サーブが「グリペン・アグレッサー」コンセプトを発表しました。メーカー自らアグレッサー機をセールスすることは極めて珍しいことです。
2017年9月12日(火)、スウェーデンの航空機メーカーであるサーブ社は多用途戦闘機「グリペン」の新しい派生型となる「グリペン・アグレッサー」コンセプトを発表しました。
2017年9月12日に公開されたグリペン・アグレッサーのコンセプトイメージ(画像:サーブ)。
サーブでは現在、前述の「グリペン」から大幅な性能向上をはかった「グリペンNG」(NGは次世代型の意)を開発中であり、「グリペン・アグレッサー」はこれに次ぐ新しい機種となりますが、機体自体は既存の輸出型「グリペンC」に準じ、演習における「仮想敵」を担当することを目的とした非戦闘用機となる見込みです。
映画『トップガン』では、主人公が搭乗するF-14「トムキャット」戦闘機の訓練相手として、凄腕の教官がA-4「スカイホーク」に搭乗し空中戦でF-14を翻弄する活躍をみせましたが、この教官とA-4を「仮想敵」、すなわち「アグレッサー(アドバーザリーとも)」と呼びます。
アグレッサーは演習において実際の戦闘に近い状況を作りだし、第一線部隊のパイロットらに疑似的な実戦経験を積ませることを主任務とします。また多くの場合、既存の機体を流用しており、たとえば航空自衛隊のアグレッサー部隊である小松基地(石川県)の「飛行教導群」は近代改修型F-15MJを使用し、Su-27などの戦術や技法を模擬します。
そのため、戦闘機メーカーが率先してアグレッサー型を発表するようなことは、筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)の知る限り「グリペン・アグレッサー」のほかに例がありません。サーブの意図はどこにあるのでしょうか。
実のところアグレッサーに最適だった?「グリペンC」は他国の同世代機に比べると、かなり小さい機体です。単発搭載するエンジンはF/A-18「ホーネット」用のF404を原型としており、F/A-18は双発機ですから、「グリペンC」はその半分程度のパワーしかありません。
ゆえに搭載能力や航続距離などは、同世代機に比べてやや見劣りすることは否めませんが、そのぶん調達コストや運用コストを可能な限り抑え「安価かつ使いやすさを重視」するという、スウェーデン独自の思想を重視しています。
「グリペン・アグレッサー」を実際にアグレッサーとして使用するには、航続距離はそれほど重要ではありませんし、ミサイルの発射シミュレーションを行うとしても実弾を搭載する必要がないので、これらの欠点を帳消しにしたうえで安価であるという長所だけを享受することができます。
もちろん戦闘機としての高い機動性を持っていますし、視程距離外交戦を可能とする高性能レーダーや戦術デジタルネットワークであるリンク16へ対応するなど、現代機として要求される能力も備えます。
セールス相手は民間企業?サーブは「グリペン・アグレッサー」をセールスする候補として米英の名を挙げており、軍の業務を民間に委託するイギリスのASDOT(空中防衛作戦訓練支援)計画やアメリカのADAIR(空中アドバーザリー)計画を請け負う、民間軍事会社への供給需要を見込んでいます。
「グリペン」は安価であるというユニークな長所を武器に、おもに予算があまり潤沢ではない中小国に対するセールスで大きな成功を収めていますが、「グリペン・アグレッサー」もまた機体の特性をうまく生かした商戦略であるといえるでしょう。

民間軍事会社ATAC社が運用する、イスラエル製戦闘機F-21「クフィル(ライオン)」(関 賢太郎撮影)。
戦闘機を民間企業が運用するという形態は、日本人的な視点からすると奇妙奇天烈に見えるかもしれませんが、世界的にはすでに定着したビジネスです。たとえばイギリスはすでにテストパイロット養成用に「グリペンD」を1機保有しており、民間のQinetiQ(キネティック)が運用を請け負っています。
またアメリカのATAC社が運用する、ホーカー「ハンター」は、在日米軍の訓練支援のため日本で目撃されることも少なくありません。同社はこのほか、IAI F-21「クフィル」といった珍しい戦闘機も運用しています。
【写真】民間運用? ETPSの「グリペンD」

帝国テストパイロットスクール(イギリス)の「グリペンD」。リース契約で導入しておりQinetiQが運用(関 賢太郎撮影)。