ハイパワーなクルマの後背面によく見られる、リアウイングと呼ばれる部品は、そもそもなんのためのものなのでしょうか。それより小さなスポイラーと呼ばれる部品もありますが、違いはあるのでしょうか。
クルマのトランクの上に柱を立てて、その上に颯爽と乗っているのが「リアウイング」。「GTウイング」と呼ばれることもあります。小ぶりなものは「スポイラー」という名前です。スポーツカーなど、クルマの多くには、そうした部品が使われていますが、いったいどのような役割を果たしているのでしょうか。
レーシングカーではごく一般的なリアウイング。市販車に比べはるかに大きな場合も。写真はスーパーGTに参戦する日産「GT-R」(画像:日産)。
リアウイングやスポイラーは走行中にクルマが受ける空気の流れを受けて、その力を走行に利用します。空気の力を使うため「空力パーツ」や「エアロパーツ」と呼ばれ、部品のある部分によって役割が異なっています。
非常に目立つ、大きなリアウイング/GTウイングは、カーブを速く曲がるのに貢献します。カーブを曲がる速度を高めてゆくと、遠心力が大きくなり、最後にはタイヤが滑って走りたい走行ラインよりも外側に膨らんだり、最悪、クルクルと回るスピン状態になったりしてしまいます。

「GT-R NISMO」の2018年モデル。当然ながら、リアウイングのサイズはスーパーGT参戦車に比べ控えめ(画像:日産)。
実際に、カーブを曲がっているときに上から力をかけるのがリアウイング/GTウイングです。走行中に前から流れてくる風を受けて、その力を下向きに変え、車体を地面に押し付けます。この力を「ダウンフォース」と呼びます。つまり、大きなリアウイング/GTウイングを装着したクルマは、カーブで大きな下向きの力が発生して、タイヤに大きなグリップ力を生み出します。その結果、カーブを速く走ることができるのです。けっして飾りの存在なわけではありません。
小さなスポイラーにも、リアウイング/GTウイングのようにダウンフォースを生み出す力があります。とはいえ、その力はサイズ並みに小さいもの。それよりもスポイラーには大事な役割があります。それが走行中の前後姿勢の調整です。

比較的小さなスポイラーにも、ウイングとはまた異なる役割がある。写真はホンダ「NSX」(画像:ホンダ)。
クルマは速度を高めてゆくと、クルマの下に流れた風がクルマを持ちあげようとします。空を飛ぶほどのものではありませんが、タイヤにかかる上からの力が弱まるので、タイヤのグリップは少なくなります。ここで問題になるのが前後のバランスです。車体の前側ばかりが浮き上がると、タイヤのグリップ力が弱まって舵の効きが悪くなります。逆に後輪側が浮き上がってグリップ力が後輪だけ減ると、なにかのはずみに後輪側から滑ってスピン状態に陥る可能性が高まります。前か後ろか、どちらかとなれば当然、後輪が浮き上がるほうが危険です。
ちなみに車体の前側の下に装着するスポイラーもあります。フロントスポイラーと呼ばれるパーツです。車体の下に風が流れ込むのを減らすことで、車体の浮き上がりを防止します。たいていは前後のスポイラーをセットで装着してバランスがとられます。
「空気の力」が燃費を左右する?リアウイング/GTウイングやスポイラーで、路面に押し付ける力を強くしようとすれば、前から流れてくる風を、なるべく大きな面で受けるのが最上です。しかし、下向きの力は大きくなりますが、前に進む力を邪魔する抵抗にもなります。つまり、遅くなったり、燃費が悪くなったりします。そのためレース車両などに装着される空力パーツは、下向きの力をなるべく大きくしつつも抵抗にならないような形状が模索されています。

ドリフト中は斜めにクルマが進むこともあるラリーカーのリアウイングは、斜めに風を受けることも想定する。写真はWRC参戦中の「ヤリス(ヴィッツ)WRC」(画像:トヨタ)。
実のところ、一般的な量産車にも空力パーツが数多く採用されています。
クルマは走行すれば必ず走行風にさらされます。その風の力を有用に利用するために存在するのがリアウイングを筆頭にした空力パーツだったのです。
【写真】FF車のリアウイングは? 「シビック タイプR」の場合

前輪を駆動するFF車にとってもコーナリング性能を高めるためにはリアタイヤのグリップは重要で、もちろんリアウイングは有効だ(画像:ホンダ)。