国土交通省が、長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)の各整備方式についての試算結果を発表。フリーゲージトレインは2027年度に導入可能とするも、山陽新幹線への乗り入れはできないとの見解を示しました。
国土交通省は2018年3月30日(金)、長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)の整備について、フリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)は2027年度に導入できる見込みであるものの、その場合の収支改善効果が、年平均で約20億円のマイナスになるとの試算結果を明らかにしました。
九州で走行試験を行っていたフリーゲージトレインの三次試験車両(2014年11月、恵 知仁撮影)。
内容は、同日開催された与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームの検討委員会に報告されています。
試算は、(1)FGTを導入する場合、(2)フル規格の新幹線で整備する場合、(3)ミニ新幹線で整備する場合――の3通りで比較検討されました。概要は次の通り。
●FGTによる整備以降に必要となる費用
(1) FGT:なし
(2) フル規格:約5300億円
(3) ミニ新幹線:単線並列約500億円/複線三線軌約1400億円
●想定工期と開業見込み
(1) FGT:約9年、2027年度
(2) フル規格:約12年、2034年度
(3) ミニ新幹線:単線並列約10年、2032年度/複線三線軌約14年、2036年度
●長崎~博多間の所要時間
(1) FGT:約80分
(2) フル規格:約51分
(3) ミニ新幹線:単線並列約80分/複線三線軌約74分
※武雄温泉駅でのFGT対面乗換開業時:約82分
●年平均の収支改善効果
(1) FGT:マイナス約20億円
(2) フル規格:約88億円
(3) ミニ新幹線:単線並列約9億円/複線三線軌約2億円
ミニ新幹線は、山形新幹線や秋田新幹線で採用されている方式です。線路の幅は在来線の狭軌(1067mm)から新幹線と同じ標準軌(1435mm)に広げる一方、車両は在来線サイズとし、新幹線区間から在来線区間への直通運転を可能にします。単線並列は複線の一方のみを標準軌に改める方法、複線三線軌は狭軌と標準軌の列車が走れるよう複線2線ともに各3本のレールを敷設する方法です。
収支改善効果は現在の在来線特急と、整備後の収支を比較して算出したものです。
長崎新幹線はFGTの開発が難航していることから、武雄温泉駅で在来線の列車から長崎行きの新幹線に乗り継いでもらう形で、2022年度に開業する計画です。
FGTの山陽直通は不可 フル規格は費用対効果がトップ報告によると、FGTは技術開発が順調に進んだ場合、2027年度半ばには導入できる見込みです。しかしFGTの最高速度が260km/hなのに対し、山陽新幹線は300km/hであるため、ダイヤ編成の面などから山陽新幹線への乗り入れはできないとの判断を示しています。
また、JR九州はコスト面での収支採算性が成り立たないため、FGTの長崎新幹線への導入は困難と表明しています。費用対効果もほかの整備方式に比べ低い結果となっています。
フル規格で整備する場合は、新線建設に伴う用地取得などがさらに必要です。また、並行在来線の経営分離について沿線自治体の同意を確認することも条件になります。一方、費用対効果は最も高い結果となっています。
ミニ新幹線で整備する場合は、整備区間に450か所以上ある橋の改修や架け替えが必要。また、工事期間中は列車ダイヤの工夫やバス代行輸送などを検討する必要があります。単線並列で整備した場合は、ダイヤ設定上の制約が生じます。費用対効果はフル規格新幹線には及びませんが、2パターンともFGTより上回っています。
検討委員会では、国土交通省の調査結果などを踏まえ、整備方法を協議します。
【路線図】長崎新幹線の検討ルート

長崎新幹線の検討ルート。武雄温泉~長崎間はフル規格新幹線で建設が進められている(画像:国土交通省)。