国土交通省が長崎新幹線の今後の整備に関して複数案の比較検討結果をまとめました。通常の新幹線をすべての区間で整備する「全線フル規格化」が最も投資効果が高いとされましたが、これに対して佐賀県と長崎県の態度は分かれました。
国土交通省は2018年3月30日(金)、整備新幹線の九州新幹線・西九州ルート(長崎新幹線)について、今後の整備方針に関する検討結果をまとめました。投資効果が最も高いのは「全線フル規格化」とされましたが、長崎県がこれを歓迎するいっぽうで佐賀県は慎重な態度を見せ、波紋が広がっています。
長崎新幹線への導入が難しくなったFGTの試験車両(2014年11月、恵 知仁撮影)。
両県とも長崎新幹線が通ることには変わりなく、所要時間が短縮されるなどのメリットがあることも共通です。なぜ両県で態度が分かれたのでしょうか。
長崎新幹線は現在、佐賀県の西側から長崎県に抜ける武雄温泉~長崎間の約66kmが2022年度中の開業を目指して工事中。佐賀県内を横断する新鳥栖~武雄温泉間の約51kmは未着工です。つまり、武雄温泉~長崎間が完成しただけでは博多(福岡市)~長崎間を直通できず、途中で在来線から新幹線に乗り換える必要があります。
そこで、現在研究中の軌間可変電車(フリーゲージトレイン=FGT)を導入し、新幹線と在来線の直通運転を行うことになりました。ところが、FGTは試験車両にトラブルが発生するなどして開発が大幅に遅れています。車両の製造コストや維持コストも高くなると見られており、JR九州は「FGTはコスト面で収支採算性が成り立たない」と表明。
こうしたことから、武雄温泉~長崎間の開業後は当分の間、武雄温泉駅で在来線特急から新幹線の列車に乗り継ぐ方式へ変更することに。新鳥栖~武雄温泉間も複数の案を改めて比較検討することになり、このほど国交省の鉄道局が検討結果をまとめたのです。
費用は「FGT」「ミニ」、効果は「フル」鉄道局が検討したのは従来からの「FGT案」のほか、在来線とは別に通常の新幹線を建設する「フル規格案」、在来線の軌間を変えて小型の新幹線車両を直通できるようにする「ミニ新幹線案」の3つ。「フル規格案」なら工事中の武雄温泉~長崎間とあわせ、全線がフル規格化されることになります。

武雄温泉駅に姿を現した長崎新幹線用の高架橋(画像:鉄道・運輸機構)。
武雄温泉~長崎間の開業+在来線特急乗り換えでは、博多~長崎間の所要時間がいまより26分短い1時間22分になる見込みです。FGT案とミニ新幹線案は、これより2~8分短い1時間14~20分とされました。乗り換えは解消されても短縮時間はそれほど大きくはありません。フル規格案の所要時間は31分短い51分で、大幅に短縮されます。
整備費用はFGT案が約800億円または約1400億円。ミニ新幹線案はそれより高く、約1700億円か約2600億円とされています。
どれも一長一短ですが、現在の在来線特急の収支と各案の整備後の収支見込みを比べた収支改善効果(年平均)をみると、その差が歴然とします。ミニ新幹線は約2~9億円の改善が見込まれますが、フル規格案は約88億円と大幅に改善されます。FGT案は逆に約20億円の悪化になるとされました。整備にかかる費用でどのくらいの投資効果があるのかを示す数値(B/C)も、フル規格案が最も高い3.3。ミニ新幹線案がそれに続く形(2.6~3.1)です。
こうしてみると、今後は収支改善効果や投資効果の高い全線フル規格化に向けた動きが活発になるかのように思われます。しかし、話はそう簡単ではありません。未着工の区間を抱える佐賀県が難色を示しているのです。
理由は建設費と利便性の「アンバランス」一番の問題は建設費。整備新幹線の建設費はJRが支払っている線路使用料のほか、国と地方が負担する補助金でまかなわれています。線路使用料収入を除いた負担の割合は、国が3分の2、地方が3分の1です。

佐賀県内の長崎本線・肥前麓~中原間を走る在来線特急「かもめ」(2016年11月、草町義和撮影)。
新鳥栖~武雄温泉間は佐賀県内ですから、この区間の地方負担分はすべて佐賀県や佐賀県内の市町村が出さなければなりません。今回の検討結果から、その金額は約1100億円になることが見込まれています。そう簡単に出せる額ではありません。
また、博多~佐賀間の距離は約54kmと短く、所要時間も在来線特急で最短35分。フル規格案では15分短い20分になりますが、現状でもそれほど不便ではありません。1000億円以上のお金を払うだけの効果があるのかどうか不透明なのです。こうしたことも、佐賀県が全線フル規格化に消極的な理由のひとつになっています。
兵庫、岡山、鳥取の3県を通って関西と鳥取を結ぶ在来線特急の高速化を図った第三セクター鉄道の智頭急行の場合、各県内の路線距離は兵庫が約29km、岡山が約14km、鳥取が約13kmで、鳥取の区間が最も短くなっています。ところが、智頭急行の最大株主は鳥取県(33.89%)です。智頭急行の整備による高速化で最も便利になるのが鳥取のため、便利になる「度合い」に応じて各県の出資比率を決めたといえます。
仮に全線フル規格化で話を進める場合、佐賀県の負担をどれだけ軽くできるかが焦点になりそうです。

長崎新幹線の検討ルート。武雄温泉~長崎間は2022年度中の開業を目指してフル規格で工事が進められている(画像:国土交通省)。