個性的な列車が多いJR九州。その背景には、切実な事情がありました。

またそんなJR九州へ近い将来、「とんでもない新観光列車」が登場するかもしれません。

そうしないと「乗ってもらえない状況」だった

 JR九州が2018年7月25日(水)、東京都内でスペシャルイベント「水戸岡鋭治×桑野和泉×赤木由美 ~地域を元気に!! 鉄道とまちづくり」を開催。この7月14日(土)に、久大本線が水害から全線復旧したことを受け実施されたもので、JR九州の車両デザインなどを手がけているドーンデザイン研究所の代表 水戸岡鋭治さん、由布院温泉観光協会の会長 桑野和泉さん、JR九州の執行役員で鉄道事業本部サービス部長・営業部長の赤木由美さんが、久大本線の「D&S列車」(観光列車)である特急「ゆふいんの森」などについて語りました。

JR九州の列車は、なぜ「とんがっている」のか? 「とんでもな...の画像はこちら >>

久大本線経由で博多と由布院方面を結ぶJR九州の特急「ゆふいんの森」。写真は2編成ある車両のうち、水戸岡さんが手がけた「III世」(2012年2月、恵 知仁撮影)。

 博多と大分県の日田、由布院方面を久大本線経由で結ぶ特急「ゆふいんの森」(III世、キハ72系)をはじめ、1990年代ごろからJR九州に登場した水戸岡さんによる鉄道車両は斬新、個性的で、現在では「水戸岡デザイン」とも呼ばれるひとつの世界観を作り上げるほどになりました。

 当時、そうした斬新で個性的な鉄道車両を水戸岡さんと製作した理由についてJR九州の赤木さんは、「『オンリーワン』をつくらないと、列車に乗っていただけない環境でした」と話します。高速道路網が構築されている九州、ライバルは「高速バス」ではなく「マイカー」で、その「マイカー」を選んでいる人に対し、いかにして「鉄道はいいよ」と思ってもらうかが大きな課題だったそうです。

「駅」とは違う、「列車」が沿線に与える力とは?

 ドーンデザイン研究所の水戸岡さんは、「利用者の立場になって、非常識なことを実行してでも『オンリーワン』をつくり、最終的に沿線の人たちが元気になることが大切」といいます。

「車両をつくることで、その地域の方が乗って、面白さが伝わっていき、元気になる――。『駅』は止まっているためさほど影響は与えませんが、『列車』は沿線が元気になります」(ドーンデザイン研究所 水戸岡鋭治さん)

「オンリーワン」をつくるにあたって水戸岡さんは、JR九州の社長に対し「製作側には立たないが、それでもいいか?」と聞いたそうです。これまでのやり方とは異なるものになり、メンテナンスなどでスタッフが大変になるかもしれないが、利用者目線でいいものをつくりたい、それでも構わないか、といった意味合いです。

 これに対する社長の返答は「我々が納得できるものであれば」。こうして数々の個性的な列車が、九州に誕生していきます。

JR九州の列車は、なぜ「とんがっている」のか? 「とんでもない新観光列車」構想も

水戸岡さんが手がけた特急「ゆふいんの森」(III世)の車内乗降口部分(2018年4月、恵 知仁撮影)。

 JR九州の「オンリーワン」な列車、その先駆け的存在である特急「ゆふいんの森」は誕生から約30年。この間、同列車が走る由布院、日田、九重、玖珠といった沿線地域は、車窓に森が増えたなど、特急「ゆふいんの森」とそれが走る「久大本線」を軸につながっていったと、由布院温泉観光協会の桑野さんは話します。

「旅人に市町村単位は関係ありません。列車の沿線がつながっていくことは、旅人にとってよいことで、九州全体にとってもよいことです」(由布院温泉観光協会会長 桑野和泉さん)

 また桑野さんは、「街の姿」を外に知らせることは難しいけれども、特急「ゆふいんの森」が走り出したことでその始発駅――久大本線の外にある博多駅でも、「由布院という街」を知ってもらえるようになったと、「オンリーワン」な列車の価値を話します。

JR九州に「とんでもない列車」登場? ファミリー向け寝台列車は実現するか

 水戸岡さんは現在、水戸岡さんが手がけた豪華寝台列車「ななつ星in九州」などで得たソフトを生かし、3世代が一緒に楽しめるファミリー向けの、世界中から注目されるとんでもない観光列車をつくりたいと考えているそうです。

「3世代が一緒に、何かをつくる。『旅』はそれができます。一緒に旅をして、おじいちゃん、おばあちゃんが知識や経験を伝えていく――。私は人生で最も大事なビジネスは、『旅』をつくることだと思っています。

次の世代のために理想的な旅、鉄道、街、『感動体験』をどうつくれるか。それをつくるのは大人で、子どもたちは、それを享受する権利があります」(ドーンデザイン研究所 水戸岡鋭治さん)

 ちなみに水戸岡さんは、ファミリー向けの寝台列車をつくりたいと常々考えているそうですが、「まだどこからも注文がありません」と笑います。

JR九州の列車は、なぜ「とんがっている」のか? 「とんでもない新観光列車」構想も

左からドーンデザイン研究所の水戸岡さん、由布院温泉観光協会の桑野さん、JR九州の赤木さん(2018年7月25日、恵 知仁撮影)。

 また特急「ゆふいんの森」のうち、古いほうの編成(I世、キハ71系)がデビューしたのは1989(平成元)年。「次の車両」を考える時期になっているようです。JR九州の赤木さんによると、単に車両が新しくなるのか、はたまた“異なる形”になるのか、何も決まっていないそうですが、「とてつもない、想像を超えることをしないといけません」とのこと。

「人を幸せにできる『旅』を作るビジネス。誇りのある仕事ですし、我々には、もっとやれることがあるのではないかと思います」(JR九州 赤木由美さん)

 近い将来、見る人をワクワクさせてくれる新たな「オンリーワン」の列車が、九州で見られるかもしれません。

【写真】壁が「金箔」の新幹線

JR九州の列車は、なぜ「とんがっている」のか? 「とんでもない新観光列車」構想も

水戸岡さんが手がけた九州新幹線の800系電車には、客室前後の壁に金箔を使っている車両もある(2011年5月、恵 知仁撮影)。

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