茅葺き屋根の駅や築100年を超える木造駅、かつてイベントや新婚旅行でにぎわった駅など、「記憶に残る」12駅を訪ねます。
洋館風の日光駅は大正生まれ【本記事は、旅行読売出版社の協力を得て、『旅行読売臨時増刊 昭和の鉄道旅』に掲載された記事「記憶に残るあの駅へ」を再構成したものです】
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歴史が息づく木造の駅、異国情緒漂う駅、時代の流れのなかで若者や新婚の夫婦でにぎわった駅。
昭和40年代半ばに「幻の村の発見」と報道され、その後、国の重伝建地区に選定された大内宿の最寄り駅。大きな茅葺きの建物が立ち並ぶ大内宿にならい、駅舎としては極めて珍しい茅葺き屋根。季節により、午前の待合室の囲炉裏には火が焚(た)かれ、郷愁を誘う。駅の周りは桜の名所としても知られる。
茅葺き屋根の湯野上温泉駅(2015年6月、越 信行撮影)。
・福島県下郷町
・会津鉄道会津線
・1932(昭和7)年12月22日開業
柳田國男の『遠野物語』から民話のふるさととして、1970年代の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンのときには大勢の若者でにぎわった。ブロックを積み上げ、屋根に瓦をいただいた駅舎は、1949(昭和24)年に建てられ、1995(平成7)年に改装。季節により、「SL銀河」が発着する。

遠野駅(2002年8月、越 信行撮影)。
・岩手県遠野市
・JR釜石線
・1914(大正3)年4月18日開業
現在の駅舎は1912(大正元)年築。

洋館風の日光駅(2004年7月、越 信行撮影)。
・栃木県日光市
・JR日光線
・1890(明治23)年8月1日開業
1997(平成9)年、新幹線開業の際に駅舎を一新。三角屋根のモダンな橋上駅として生まれ変わった。旧駅舎は1912(大正元)年に開業した瀟洒(しょうしゃ)な洋風建築。現在は解体移築・改装され、しなの鉄道旧駅舎口として利用されている。1963(昭和38)年まで国鉄で唯一のアプト式が存在した。

軽井沢駅(2003年5月、越 信行撮影)。
・長野県軽井沢町
・JR北陸新幹線、しなの鉄道線
・1888(明治21)年12月1日開業
近代的な新幹線口と対照的に、北口には木造駅舎がたたずむ。1933(昭和8)年に完工、1940(昭和15)年に改装された駅舎は耐震化された上で今も現役で利用されている。

掛川駅(2012年3月、越 信行撮影)。
・静岡県掛川市
・JR東海道新幹線、東海道本線、天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線
・1889(明治22)年4月16日開業
旧国電区間の中央線の終着駅。大正天皇の御陵の多摩陵、昭和天皇の御陵の武蔵野陵がある武蔵陵墓地や高尾山薬王院に近い。現在の駅舎は1927(昭和2)年に完成した、破風(はふ)が特徴的な寺社風。現在、駅周辺の整備事業が進行中で、近い将来、写真の駅舎は別の場所に移築・保存される予定。

破風(はふ)が特徴的な寺社風の高尾駅(2016年1月、越 信行撮影)。
・東京都八王子市
・JR中央本線
・1901(明治34)年8月1日開業
昭和の新婚旅行ブームのとき、伊勢・志摩は人気のルート。“お伊勢さん”の玄関口・宇治山田駅は、東武浅草駅、南海難波駅を手がけた名建築家、久野節(みさお)により建てられた。開業当時のままの鉄筋コンクリート3階建てで、外壁にテラコッタを張りつけた重厚な駅舎は、国の登録有形文化財。

宇治山田駅(2014年11月、越 信行撮影)。
・三重県伊勢市
・近鉄山田線、鳥羽線
・1931(昭和6)年3月17日開業
1907(明治40)年に誕生した優美な駅舎は、東京駅などを設計した辰野金吾らの事務所が手がけた。左右対称の建物は徳利形の柱をはじめ、細かい装飾が施されている。現在、南海本線の立体交差事業工事のため仮駅舎を開設。写真の駅舎は、30mほど移転し、内部ではカフェなどが営業している。

立体交差事業工事前の浜寺公園駅(2012年12月、越 信行撮影)。
・堺市西区
・南海本線
・1897(明治30)年10月開業
山あいのひっそりとしたローカル線の終着駅。若桜線は国鉄民営化後に第三セクターの若桜鉄道となったが、駅舎は開業当時のもの。ホームには案山子(かかし)が並び、旅人を出迎える。駅構内には転車台や給水塔など、SL時代の設備も残り、駅舎とともに国の有形文化財に登録された昭和の貴重な鉄道遺産だ。この春には観光列車「昭和」がデビューした。

若桜駅(2014年4月、越 信行撮影)。
・鳥取県若桜町
・若桜鉄道若桜線
・1930(昭和5)年12月1日開業
「山陰の小京都」として、アンノン族をはじめとする若者たちの人気を呼んだ。

津和野駅(2008年3月、越 信行撮影)。
・島根県津和野町
・JR山口線
・1922(大正11)年8月5日開業
昭和の時代から、「学」駅の硬券「入」場券を「5」枚買うと「ご入学」となることから、受験生のお守りとして話題を集めた。2010(平成22)年に無人化されてからも徳島駅などで入場券を販売し、また新春には学駅でも入場券を購入することができる。1983(昭和58)年に完成した2代目の駅舎は、屋根にのった櫓(やぐら)風の建築が目を引く造りになっている。

櫓(やぐら)風の建築が目を引く造りの学駅(画像:吉野川市)。
・徳島県吉野川市
・JR徳島線
・1899(明治32)年12月23日開業
高度経済成長期に新婚旅行の行き先として脚光をあびた日南海岸。その一角、青島の最寄り駅。青島は亜熱帯植物で覆われ、縁結びの青島神社や国の天然記念物の奇勝「鬼の洗濯板」で有名だ。駅舎は日南のコバルトブルーの海を想像させる空色のラインが印象的。

空色のラインが印象的な青島駅。
・宮崎市
・JR日南線
・1913(大正2)年10月31日開業

『旅行読売臨時増刊 昭和の鉄道旅』。特別企画は「片渕須直監督・のんが語る『この世界の片隅に』ある人・街・景色」、付録は1964年当時の国鉄営業局貨物事務用鉄道路線図。
【写真】線路がまっすぐに伸びる学駅構内

学駅。現在は片道おおむね1時間あたり1~2本の普通列車が発着する(画像:吉野川市)。