電車が架線から電気を採り入れるため屋根に設置されているパンタグラフ。かつては「ひし形」のものが多かったですが、最近は「く」の字のものが多くなりました。
駅のホームで電車を見上げると、屋根の上に細い棒が伸びているのが見えます。これは「パンタグラフ」と呼ばれる電車の部品のひとつ。電車や電気機関車は通常、線路の上に架設された電線(架線)から電気を採り入れ、これをモーターに送って走るため、屋根上にパンタグラフを設置しているのです。
最近のパンタグラフは「く」の字の形をしたものが多い(2018年7月、伊藤真悟撮影)。
このパンタグラフ、かつては「ひし形」と呼ばれるタイプを採用しているものがほとんどでした。細い棒を複数組み合わせたふたつのひし形で、集電舟(架線に擦らせて電気を採り入れるための部品)を支える構造になっています。
ところが、最近の新型電車のパンタグラフはひし形をほとんど採用しておらず、「く」の字になっているものが増えました。これは「シングルアーム式」と呼ばれるパンタグラフ。ひし形パンタグラフを採用した古い電車も、シングルアーム式パンタグラフに交換したものが増えています。なぜ、パンタグラフの形が変わったのでしょうか。
シングルアーム式パンタグラフは、1本の細い棒が途中で折れるような構造になっています。
しかし、シングルアーム式の利点はコストだけではありません。とくに新幹線のような高速列車では、コスト以外にも大きな利点があります。

ひし形パンタグラフは細い棒を複数組み合わせた構造。部品の数も多くなる(2016年8月、草町義和撮影)。
ひし形は細い棒を何本も組み合わせていますから、走行中に受ける空気抵抗も大きくなります。列車が速く走れば走るほど、空気抵抗によって生じる騒音も大きくなってしまいます。一方、シングルアーム式は部品が少ないため空気抵抗も小さく、ひし形に比べ騒音を抑えることができるのです。
なお、架線は一定の高さで設置されているわけではなく、踏切の部分では高くしたり、トンネルの部分では低くしたりしています。列車も速くなればなるほど、走行中の振動などで架線からの高さが変化します。
このため、パンタグラフは架線の高さが変化しても、集電舟が架線からできるだけ離れないようにするための性能が求められます。ひし形は複数の細い棒で集電舟を支えていることから高さの変化に追随しにくく、逆にシングルアーム式は集電舟を支えるポイントが少ないため追随しやすいという利点があるのです。
ちなみに、シングルアーム式パンタグラフ自体は1950年代にフランスのメーカーが開発し、欧州では早くから普及していました。日本でシングルアーム式パンタグラフを搭載した車両が多数登場するようになったのは1990年代に入ってから。これはフランスのメーカーが持っていたシングルアーム式パンタグラフの特許が1980年代後半に切れ、日本のメーカーが製造しやすくなったことも背景にあるようです。
【写真】パンタグラフを畳んで走るJR九州の電車

JR九州のBEC819系電車「DENCHA」。写真のように架線のない非電化区間ではパンタグラフを折り畳み、あらかじめ充電しておいたバッテリーの電気を使って走る(2017年5月、草町義和撮影)。