東京湾アクアラインは、土休日の夕方を中心に、上り線で慢性的に渋滞が発生しています。アクアトンネルでは過去の対策が一定の効果を上げていますが、近年は再び渋滞が増加傾向に。

抜本的な解決に向けた新たな取り組みも行われています。

トンネルの渋滞緩和には対策が一定の効果

 首都圏の高速道路には、土休日などに必ずといっていいほど渋滞が発生するポイントがいくつかありますが、そのひとつに東京湾アクアライン(以下、アクアライン)が挙げられるでしょう。

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東京湾アクアライン、木更津側から海ほたるPA方向を望む(画像:NEXCO東日本)。

 アクアラインでは2009(平成21)年から、千葉県が通行料金を一部負担する形でETC利用ならば普通車で800円に割引されたこともあり、通行台数が年々増大し、2016年度の1日あたり通行台数は約4万5600台と開通時の約4倍になっています。NEXCO東日本関東支社によると、「おもに土日や祝日において、房総半島への行楽地などを目的として交通量が増加する傾向にあり、夕方の帰宅時間帯には、川崎方面へ向かう上り線で交通が集中して慢性的な渋滞が発生しています」とのこと。アクアライン渋滞の原因と対策について、同支社に聞きました。

――なぜ渋滞が発生するのでしょうか?

 アクアラインの上り線には、アクアトンネル(海ほたるPA~川崎浮島JCT)におもに2か所のボトルネックがあります。ひとつ目は、川崎浮島JCT付近のゆるやかな上り坂から急な上り坂に勾配が変化する箇所、ふたつ目は海ほたるPA付近の急な下り坂からゆるやかな下り坂に勾配が変化する箇所です。いずれの場所も、ドライバーが無意識に速度を落としてしまうことで、交通量が多い状態では、後続の車に次々とブレーキが伝播して渋滞が発生します。

――どのような対策を行っているのでしょうか?

 この2か所のボトルネックにおいては、「ペースメーカーライト」を設置しています。これは進行方向に青い光を一定の速さで点滅させることで、ドライバーの無意識な速度低下を抑制し、渋滞の予防を図るものです。また、渋滞発生後も速やかな速度回復を促す効果があり、渋滞緩和に一定の効果を上げています。

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 このアクアトンネル内のペースメーカーライトは2013年に設置(翌年に延長)され、NEXCO東日本は2015年の時点で、上り川崎浮島JCT付近については渋滞回数、渋滞損失時間ともに減少したとしていました。しかし、以後も交通量は増大し、2018年夏現在も渋滞は増加傾向にあるとのこと。どのように対策していくのでしょうか。

「日本の高速道路会社で初」の渋滞対策とは

 NEXCO東日本では、土休日におけるアクアライン上り線の渋滞解消に向け、2017年12月からNTTドコモと共同で、人工知能(AI)技術を活用した「AI渋滞予知」の実証実験を行っています。日本の高速道路会社では初めてというこの取り組みについて、再び話を聞きました。

――「AI渋滞予知」とはどのような取り組みなのでしょうか?

 携帯電話ネットワークを利用して作成される人口統計と、過去の渋滞実績をもとに、その日の正午時点における総半島一帯の人出に基づき14時から24時までにアクアライン上りで発生する渋滞を予測し、渋滞が発生する前に精度の高い「AI渋滞予知」をウェブサイト「ドラぷら」へ配信する取り組みです。

 その日の人口分布状況を考慮するため、天候やイベント開催などによる突発的な渋滞発生についても的確に予測できるのが特徴です。この情報をもとに、ドライバーが渋滞時間帯を房総半島で過ごしていただくことで交通分散が促されます。利用者満足度の向上、渋滞緩和、周辺地域経済の活性化といった効果を期待するものです。

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 つまり、アクアライン上り線の渋滞時間帯(おもに土休日の15~20時)に通行するのを避けてもらうという取り組みです。NEXCO東日本ではこの「AI渋滞予知」に基づきさらに、当日の夕方から夜の時間帯にのみ、千葉県側の「三井アウトレットパーク木更津」や木更津市内の商店で利用できるクーポンを配布。混雑がピークを越えた20時から22時にかけては、海ほたるPAのショップで利用できるクーポンも配布しています。

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「ヨル得」キャンペーンのイメージ(画像:NEXCO東日本)。

 この「ヨル得」と呼ばれるキャンペーンは、アクアラインの分散利用とともに地域発展を促す対策として、木更津市、三井アウトレットパーク木更津およびNEXCO東日本が連携して始めたものだといいます。「渋滞の解消まで房総半島でおトクに過ごしてから帰宅していただくことで、交通分散が促され渋滞緩和につながることを期待しています」(NEXCO東日本関東支社)とのことです。

「混雑時の交通分散」はどれほど効果的なのか

 NEXCO東日本関東支社によると、「ヨル得」の効果などについてはまだ検証できていないといいますが、混雑時間帯で具体的にどれほど通行台数を減らせれば、渋滞が緩和されるのでしょうか。さらに話を聞きました。

――通行台数をどれほど減らせれば、渋滞が緩和されるのでしょうか?

 渋滞は、道路が流すことのできるクルマの量(交通容量)を超える台数の車が流れ込むことで発生します。道路の構造や気象などの走行環境条件、大型車の混入率といった様々な要素が複雑に関係して決まります。場所ごと、あるいは日にち、時間帯ごとに値が変化するため、交通容量を超えた車両が何台存在するのかを一概には言えません。

 しかしながら一般論としては、そもそも交通分散によってピーク時の交通量が交通容量を下回れば渋滞は発生しません。また、交通容量を超える需要があったとしても、交通分散により渋滞の発生時刻を少しでも遅らせることができれば、大きな渋滞緩和効果があります。というのも、ひとたび渋滞が発生してしまった後では、通過できる交通量は2~3割も低下してしまうからです。

――渋滞の発生を遅らせると、どのような効果があるのでしょうか?

 たとえば、もともとの交通容量を「10」としたときに、渋滞発生後の通過交通量は「7~8」程度になってしまいます。

渋滞の発生を遅らせ、「10」通ることのできる時間を長くキープできれば、そのぶん、渋滞に巻き込まれる前に通過できる車が増えることになります。「10」を超える前であれば「9」の車が来ても渋滞しませんが、いちど「10」を超えて渋滞が発生した後では、「7~8」しか通過できないため、「9」の車が来ると渋滞が延びてしまうのです。

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NEXCO東日本とNTTドコモが共同で実証実験を行っている「AI渋滞予知」の概要(画像:NEXCO東日本)。

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 NEXCO東日本関東支社は、「定量的な交通分散の評価は難しいものの、これにより高い渋滞緩和効果を期待できることから、当社では交通容量をアップさせる道路側の対策とあわせて分散利用による渋滞対策にも取り組みます」としています。

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