東急電鉄が、たまプラーザ駅周辺の住宅街で「オンデマンドバス」の実験運行を開始。住民の予約に応じて運行し、地域内の主要施設を巡回します。

高齢化が進む地域に「新たな足」を提供することで、地域を変えようという試みです。

丘陵地の住宅街「歩くのがしんどい」

 東急電鉄が2019年1月23日(水)から、田園都市線 たまプラーザ駅(横浜市青葉区)近くの住宅街を巡回する「オンデマンドバス」の実験運行を開始しました。

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たまプラーザ駅周辺の住宅街で実験運行されるオンデマンドバスの車両(2019年1月22日、中島洋平撮影)。

 このオンデマンドバスは、東急電鉄らによる「郊外型MaaS(Mobility as a Service)」実証実験の一環。「MaaS(マース)」とは、利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提示するサービスのことです。今回は、たまプラーザ駅北側の「美しが丘地区」でこのバスを運行し、地域住民の高齢化といった課題解決に役立て、「MaaS」事業の可能性を検討することを目的としています。

「美しが丘地区は約60年前、たまプラーザ駅周辺でも早くに開発された地区で、高齢化が進展しています。丘陵地のため坂道が多く、『歩くのがしんどい』という意見も聞かれます。外出がおっくうになると近所づきあいも薄くなり、コミュニティの希薄化につながってしまう恐れがあるのです」(東急電鉄)

 この地域では目抜き通りに路線バスも頻繁に運行されていますが、住民からは「自宅からバス停や駅まで遠い」といった声もあり、「街のインフラが(住民と)ミスマッチを起こしている」とのこと。加えて近年、若い世代は仕事場に近い都心部に住む傾向があり、東急や横浜市は、たまプラーザ駅周辺のような郊外型住宅地が「いずれゴーストタウンになってしまうのではないか」という懸念を抱いているそうです。

 そこで東急が描く新たな街の姿が、歩いて暮らせる程度の適度な生活圏ごとに買い物、福祉、医療、子育て施設など必要な機能を適切に配置し、それらをバスなどで結ぶというもの。その担い手として用意されるのが、住民からの予約に応じて運行されるというオンデマンドバスで、これらにより地域住民の外出を促すといいます。

車両は「ハイエース」 住宅街の細い路地にも

 今回運行される「オンデマンドバス」の車両はトヨタ「ハイエース」。1台の旅客定員は7人です。利用者はウェブサイト上で乗車場所と降車場所を選び、利用時間を指定し、乗車予約を行います。バスは予約に応じて運行され、基本的には決められたルートを巡回(1周30分程度)しますが、予約状況により随時ルートを変更し、指定された場所まで向かいます。

 東急電鉄によると、運行にはAI(人工知能)を活用した配車システムを利用。一般的なオンデマンドバスは、予約に応じてオペレーターが運行状況を見ながら、近くを走るバスに乗客を迎えに行くよう指示するところ、このシステムは「どのバスがどこへ迎えに行けばいいのか」がAIにより瞬時に決められ、乗務員のタブレット端末に情報と指示が送られるそうです。

このままじゃゴーストタウン 高齢化進む東急沿線の住宅地、オンデマンドバスが変えるか

オンデマンドバスは7人乗りで運行。
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利用者はウェブサイト上で乗降地を指定する。
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オンデマンドバスの運行ルートは急な坂が連続する。

 バスは大型路線バスが運行される目抜き通りを経由せず、住宅街を主に走行。急なアップダウンが連続するなか、大型バスが通れないような細い路地にも進んでいきます。運行ルート上には12の乗降場所のほか、特にたまプラーザ駅から離れた場所では、リクエストがあった場合のみ運行するルートも設定されており、そのなかに5つの乗降場所が設けられています。

 実験中の運行は平日9時から16時までのあいだ、1台で実施。応募した地域住民のモニター登録者が利用対象です。東急はこの実験を通じ、技術的な検証を行い、利用形態を把握するとしています。なお、将来的には有料での運行をイメージしているといいますが、具体的な利用料金などは、まだ決まっていないそうです。

もうひとつの実証実験「パーソナルモビリティ」とは

 美しが丘地区における「郊外型MaaS」実証実験ではオンデマンドバスのほか、「パーソナルモビリティ」の実証実験も2月20日(水)から1か月間行われます。

 これは、2人乗りの超小型電気自動車、ホンダ「MC-β」を予約に応じて貸し出すというもの。2017年に実施された住民アンケートでは、「自動車と自転車の中間タイプの移動手段が欲しい」という声があったことなどから、起伏の多い美しが丘地区における「ラストワンマイル・モビリティ」(目的地までの『最後の1マイル』を補完する乗りもの)として、その可能性を検証するとしています。

 オンデマンドバスが主に高齢者の利用を想定しているのに対し、こちらは「自宅や目的地までのちょっとした足」として幅広い世代の利用を想定しているとのこと。実験は応募した14人の参加者を対象に行われますが、年齢の内訳は20代から70代までと幅広く、ほとんどが会社員。「子供の送り迎えに利用したい」といった声もあるそうです。

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「パーソナルモビリティ」として使われるホンダ「MC-β」。
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アクセルペダル、ブレーキペダル、パーキングブレーキのほか、「D」ボタンや「R」ボタンがある。

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窓はビニール製。ジッパーで開け閉めする。

 運転は普通自動車免許で可能。ハンドルやアクセル、ブレーキなどの操作は自動車と同様です。ホンダによると、家庭用の100V電源で6~7時間(200V電源ならばその半分)充電すれば60~70km走行でき、速度も最大で60~70km/h出るとのこと。

「MC-β」は国土交通省が「超小型モビリティ」の普及を目指すにあたり、車両区分などの制度整備を目的とした実験のため開発されたもので、これまでに熊本県やさいたま市などで実証実験が行われてきました。急な坂が多い美しが丘地区でも、十分走行できるパワーがあるそうですが、これまでの実験は比較的平坦な場所だったため「いままでで最も過酷な実験環境しれません」(ホンダ)といいます。

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