東武バスと神奈川中央交通が、川越と藤沢を圏央道経由で直結する高速バスの運行を始めます。都心のターミナルや、高速バスの行き先として一般的な観光地を経由せずに「衛星都市」どうしを結ぶ路線、どのような需要があるのでしょうか。

東武と神奈中、初タッグ

 東武バスグループの東武バスウエスト(さいたま市北区)と、神奈川中央交通(神奈中)グループの神奈川中央交通西(神奈川県平塚市)が2019年3月16日(土)、高速バス新路線「圏央ライナー川越湘南線」の運行を開始します。主に圏央道を経由し、埼玉県川越市と神奈川県厚木市、藤沢市を直結する路線で、運行概要は次のとおりです。

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「圏央ライナー川越湘南線」のイメージ(画像:東武バス)。

・運行区間:川越地区(神明町車庫、本川越駅、川越駅西口)~本厚木駅~藤沢地区(辻堂駅北口、藤沢駅北口)
・運行本数:1日2往復(朝と夕方)
・所要時間:川越駅西口から本厚木駅まで1時間40分、藤沢駅北口まで2時間30分
・運賃:川越地区~本厚木駅間1800円、川越地区~藤沢地区間2000円(小児半額)

 神奈中グループでは、埼玉県を拠点とする事業者との共同運行は今回が初めてとなります。東武バスグループでは2018年から京浜急行バスと共同運行している「鬼怒川温泉・日光~羽田空港・横浜線」で神奈川県内に乗り入れていますが、県中央部への乗り入れは、やはり初めてです。

 一般的に関東とその近郊エリアで運行される高速バスは、山手線の駅をはじめとする大ターミナル駅と地方都市、観光地(遊園地や商業施設含む)、あるいは空港を結ぶものが多いですが、いわば東京の「衛星都市」どうしを結ぶ路線は珍しいでしょう。加えて、川越~藤沢間は鉄道でも乗り換え1回、所要1時間40分前後、1500円以下(東武東上線とJR湘南新宿ラインを利用した場合、IC運賃で1435円)で移動できるなか、新路線にはどのような需要があるのでしょうか。

需要の「掘り起こし」成功なるか

 新路線について、東武バスに話を聞きました。

――今回の路線は、どのような狙いがあるのでしょうか?

 川越市と、藤沢市をはじめとする湘南地区は双方とも人気の観光エリアで、国内はもとより、近年は訪日観光客も多く訪れています。今回の路線は、圏央道の開通により埼玉県と神奈川県のアクセスが飛躍的に向上したことで、双方の観光地を結ぶ新たなアクセスルートを開設し、観光需要を掘り起こすものです。

 途中で停車する本厚木駅は、神奈川県内でも乗降客数が多く、周辺には工業団地や大学が立地するほか、観光地である箱根や大山への玄関口でもあることから、多くの方にご利用いただけるものと考えております。

高速バスの新潮流? 都心スルーで「川越~藤沢線」開設の狙い 圏央道の活用広がる

圏央道を活用する高速バスのひとつ、高崎・前橋~成田空港線「アザレア号」千葉交通車(2018年3月、中島洋平撮影)。

――所要時間、運賃ともに鉄道を上回りますが、「強み」はどのような点でしょうか?

 鉄道では都内で乗り換えが発生しますが、今回の路線は乗り換えが不要で、トイレ付きのバス車内でゆったりと、座ってお過ごしいただける点が「強み」です。乗り換えのない「わかりやすさ」も、訪日観光客の需要にも応えるものでしょう。

 とはいえ、観光やビジネスにおける行き帰りのいずれか、片道利用のウエイトが高いと想定しています。アクセス手段の選択肢として選んでいただけるよう、幅広くPRしてまいります。

※ ※ ※

 また神奈中グループは2015年に、圏央道を経由する藤沢・辻堂・本厚木~河口湖線、町田・橋本~河口湖線を開設しています。「両路線とも多くのお客様にご利用いただいています。そこで今回、次なる『圏央道を活用した路線』として(川越~藤沢線を)開設しました」とのことです。

圏央道を活用した高速バスの「乗り継ぎサービス」も

 圏央道の開通により、特に群馬・栃木関係の高速バスで、ルートを首都高経由から圏央道経由に変更するケースも増えています。これを受け、国土交通省も圏央道を使った高速バスの「乗り継ぎサービス」の社会実験を、2019年2月21日(木)から約1か月間、実施しています。

 これは、2017年に首都高経由から圏央道経由に変更した前橋~成田空港線(関越交通、千葉交通)と、長野~新宿線(アルピコ交通、京王電鉄バス)を、関越道の高坂SA(埼玉県東松山市)で乗り換えることで、長野~成田空港間の所要時間を都心経由から平均で30分短縮させるというものです。関越道を経由し地方と東京を結ぶ高速バス路線が多いなか、それらと圏央道を経由する路線とを結び付けることで、乗り換えに便宜を図り、交通ネットワークを拡充することが狙いです。

 実験を主導する国土交通省 関東地方整備局によると現在、たとえば圏央道経由で埼玉県と千葉県を結ぶ新たな路線について、圏央道の沿線自治体からも運行の要望が上がっており、その開設を具体的に検討している事業者もあるといいます。

高速バスの新潮流? 都心スルーで「川越~藤沢線」開設の狙い 圏央道の活用広がる

さいたま市と千葉市を外環道経由で結ぶ小湊鐵道「ちばたまライナー」(画像:小湊鐵道)。

 ちなみに、圏央道だけでなく、2018年6月に開通した外環道の「千葉区間(三郷南IC~高谷JCT)」も、高速バスに変化をもたらしています。

 たとえば小湊鐵道が2017年に運行を開始した千葉市とさいたま市を結ぶ「ちばたまライナー」は、外環道千葉区間の開通後、首都高経由から外環道経由にルート変更し、所要時間が30分以上短縮しました。また、松戸新京成バスと京成バス、京浜急行バスが外環道開通を受け、新松戸・松戸~羽田空港線を新たに開設しています。こうした、都心の外側をつなぐ“環状道路”を活用した高速バスの新路線が、今後さらに誕生するかもしれません。

【時刻表】川越~藤沢間は所要2時間以上

高速バスの新潮流? 都心スルーで「川越~藤沢線」開設の狙い 圏央道の活用広がる

「圏央ライナー川越湘南線」は1日2往復。川越駅西口~藤沢駅北口間の所要時間は2時間30分(画像:東武バス)。

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