都市部の鉄道やバスを中心に、交通系ICカードによる運賃決済が広まっていますが、コスト面から地方の鉄道やバスでは導入されていない場合も。様々な決済方式が登場するなか、「最適解」はあるのでしょうか。

「Suica」登場から18年 未導入の事業者も多い

 鉄道やバスにおける現金以外の運賃決済方法として、ICカード乗車券が広く使われています。そのおもなものであるJR東日本の「Suica」が誕生したのは、2001(平成13)年のこと。いまでは「Suica」をはじめ全国10の交通系ICカードで相互利用も可能です。

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関東自動車の車両(新塗装)。栃木県最大のバス事業者だが、同社ではICカードを導入していない(画像:関東自動車)。

 一方、地方の鉄道やバスにおいては、こうした交通系ICカードに非対応というケースも少なくありません。たとえば、茨城県内で路線バスを運行する茨城交通では、独自のICカード乗車券「いばっピ」を導入していますが、上記の交通系ICカードとの相互利用は不可。栃木県最大のバス事業者である関東自動車では、ICカードを導入していません。

 しかし2019年1月以降、関東自動車はスマートフォンを利用した「QRコード」決済サービス「PayPay」と「LINE Pay」を、いずれもバス会社としては日本で初めて導入。関東自動車と同じ「みちのりホールディングス」傘下の福島交通も3月27日(水)から、岩手県北バスは4月1日(月)に「PayPay」の取り扱いを始めました。

「QRコード決済などはこれから活発になるうえ、インバウンド(訪日観光客)に対応する観点からも、グループ各社においてキャッシュレス化を積極的に進めていきます」(みちのりホールディングス)

 いずれも、いまは窓口における乗車券などの購入に利用が限られていますが(岩手県北バスの仙台空港~花巻線ではアテンダントによる乗車券の車内販売でも利用可)、みちのりホールディングスは「技術的に可能になれば」としつつ、これを路線バス車内における運賃決済へ導入することも、キャッシュレス化のひとつの手段と考えているそうです。

バス車内のQRコード決済導入には課題も

 すでに、一部のバスではQRコードによる運賃決済が導入されています。

九州の西日本鉄道では2019年2月、インバウンド利用を想定して中国のQRコード決済サービス「アリペイ」と「ウィチャットペイ」に対応する決済端末を、高速バス佐賀空港~福岡線に導入。降車の際に運転手へ申し出たうえで、「アリペイ」「ウィチャットペイ」のアプリ画面で表示される支払いコードを運賃箱上の読み取り端末にかざし、決済ができるようになりました。

 現在、経済産業省でも交通事業者向けに、QRコード決済を含むキャッシュレス決済の普及について検討を進めています。同省のキャッシュレス推進室によると、「ICカードは大がかりなシステム構築が必要ですが、QRコード決済は、極端にいえばQRコードが印刷されたシールを貼るだけでも導入でき、利用者のスマホひとつで決済が完結します」とのこと。ICカードと比べ、導入コストの面ではかなり有利だそうです。

ようやく進むか「地方交通のキャッシュレス化」 交通系ICカード以外の方法も

西鉄「佐賀空港~福岡線」におけるQRコード決済端末の設置イメージ(画像:西日本鉄道)。

 ただ、バス車内におけるQRコード決済の普及には課題も。西鉄の佐賀空港~福岡線は、大人片道運賃が1130円(佐賀空港~高速基山)と1650円(佐賀空港~福岡市内)の2通りしかなく、運賃の違いにも比較的容易に対応できますが、一般的に路線バスの運賃は、より細かく乗車距離に応じて変動します。その運賃変動への対応が課題になると、経済産業省でも想定しているものの、まだ方針は策定していないといいます。

バス車内のQRコード決済導入には課題も

 経済産業省 キャッシュレス推進室によると、地方交通のキャッシュレス化においてQRコード決済は「あくまでひとつの手段」とのこと。「(これまで国土交通省が推進している)ICカードの普及を転換していくわけではなく、地域に合ったシステムを導入していくことでしょう」と話します。

 みちのりホールディングスも、ICカードを含めたキャッシュレス化の展開には「地域性がある」といいます。

関東自動車については、宇都宮地区で整備が進められているLRT(路面電車)との共通利用を図る観点からも、JR東日本が2018年9月に構想を発表した「地域連携ICカード」の導入を検討しているそうです。

ようやく進むか「地方交通のキャッシュレス化」 交通系ICカード以外の方法も

JR東日本が開発している「地域連携ICカード」の利用イメージ(画像:JR東日本)。

 JR東日本はこの「地域連携ICカード」について、「1枚のカードで地域交通に必要な独自サービスを提供しながら『Suica』の既存インフラを活用できる」ものとし、システム投資を大幅に抑えられるとしています。みちのりホールディングスは、「街なかでどのような決済方法が普及しているかも含めて、地域性を考慮しながらキャッシュレス化の検討を進めていきます」と話します。

 ちなみに、「交通系」ではなく、いわゆる「商業系ICカード」を路線バスに導入する動きも存在。そのひとつがイオンの「WAON」です。北海道の帯広市や釧路市、京都市などで「WAON」に対応した路線バスが運行されており、バスの乗車でも、「WAON」加盟店における買い物でも、「WAON」ポイントが貯まります。

【写真】「交通系」じゃないICカード利用可のバス

ようやく進むか「地方交通のキャッシュレス化」 交通系ICカード以外の方法も

北海道のくしろバスなどでは、イオンのICカード「WAON」による決済端末が一部路線で導入されている(画像:FIG)。

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