2019年の「パリ国際航空宇宙ショー」では、フランス、ドイツ、スペインの共同開発機や、トルコの独自開発機など最新鋭戦闘機がお披露目されました。これらの事例から、暗雲の広がり始めた空自F-2後継機開発に必要なものが見えてきます。

空自F-2後継機、2020年度の開発関連経費は計上見送りに

 2019年6月23日(日)付の共同通信は、防衛省が2020年度予算の概算要求に、航空自衛隊が運用しているF-2戦闘機を後継する、新戦闘機の開発関連経費を盛り込まない方向で調整に入ったと報じました。

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6月に開催された「パリ国際航空宇宙ショー」の会場でお披露目された、FCAS有人戦闘機のコンセプトモデル(竹内 修撮影)。

 F-2後継機に関しては2018年12月に発表された、おおよそ今後5年間の防衛力整備方針を定めた「中期防衛力整備計画」に、「国際協力を視野に、我が国主導の開発に早期に着手する」という文言が盛り込まれており、F-2が2030年代前半から退役を開始することを鑑みて、2020年度から開発に着手するのではないかとの見方もありました。

 共同通信によれば、F-2後継機に求める航続距離や速度、レーダーの探知能力といった性能や設計の概容がまとまっておらず、また多くても100機程度のF-2後継機を国内企業主導で開発、生産した場合、コストの増大が見込まれることに財務省などが強い抵抗を示していることも、2020年度からの開発着手が見送られた理由のひとつとされています。

 このようにF-2後継機はまだ先行き不透明な状況にありますが、他方、諸外国ではいくつかの新戦闘機計画が着実に進められています。そのひとつが6月17日に「パリ国際航空宇宙ショー」の会場で大型コンセプトモデルがお披露目された、フランスとドイツ、スペインの3か国が共同開発する新戦闘機「FCAS(Future Combat Air System)」です。

 現在、フランス空軍と海軍はダッソー「ラファール」、ドイツ空軍とスペイン空軍はユーロファイター「タイフーン」を主力戦闘機として運用しています。FCASはこれら戦闘機を後継するもので、2017年7月13日に行なわれた、フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相による首脳会談で両首脳が共同開発に合意。その後2019年2月にフランス側の開発主導企業であるダッソー・アビエーションと、ドイツ側の開発主導企業であるエアバスが、FCASの仕様を定めるための共同研究協定に署名して開発が正式にスタートし、同時にスペインが正式に共同開発国へ加わりました。

仏独西にトルコも 世界の次期戦闘機最新事情 暗雲のF-2後継機開発に必要なものは…?

仏海空軍の主力戦闘機、ダッソー「ラファール」(竹内 修撮影)。
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独空軍はユーロファイター「タイフーン」を「EF-2000」と呼称(竹内 修撮影)。
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FCAS有人戦闘機コンセプトの機首。
電波を逸らしやすいそろばん玉状(竹内 修撮影)。

 今回の「パリ国際航空宇宙ショー」の会場では、マクロン大統領と開発3か国の防衛大臣による立会いのもと、ダッソー・アビエーションとエアバスによる、技術実証機の製造協定の調印式も行われました。今後は2026年に技術実証機の初飛行、そして2040年の実用化を目指して開発が進められることになります。

FCASは有人戦闘機のみにあらず

 今回お披露目されたFCASのコンセプトモデルは、機首部などの形状はF-22によって確立された、いわゆる「ステルス戦闘機」の形状を踏襲していますが、レーダー波を逸らしやすくするためF-22やF-35よりもさらに外側に大きく傾けた垂直尾翼など、F-22やF-35以上に対レーダーステルス性能を重視したデザインとなっており、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はF-22とアメリカ空軍の先進戦術戦闘機の座を争って敗れたYF-23に近い戦闘機という印象を受けました。FCASのサイズは発表されていませんが、コンセプトモデルを見る限り、「ラファール」や「タイフーン」、F-35よりも大きな戦闘機になるのではないかと思われます。

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エアバスが「パリ国際航空宇宙ショー」で公開したFCASの、UAVコンセプトモデル(竹内 修撮影)。

 FCASは「将来航空戦闘『システム』」という名称が物語るように、単に新しい戦闘機を開発するのではなく、「ラファール」と「タイフーン」を後継する有人戦闘機と同時に、これと共に行動するUAV(無人航空機)の開発も並行して行なわれます。

 防衛装備品の国際共同開発では、開発参加国の思惑の違いや役割分担をめぐる争いなどにより難航することも少なくありませんが、フランスとドイツの両国はFCASの開発にあたって、その核となる有人戦闘機の開発はダッソー・アビエーションに、有人戦闘機とUAVを既存の航空機や巡航ミサイル、艦艇などと連携させるシステム「エア・コンバット・クラウド」の開発の主導はエアバスに、それぞれ割り振っています。役割分担を明確にすることによって、開発を担当する企業間の思惑の違いやプライドのぶつかり合いによる摩擦を未然に防ぐという手法を採ったのは、防衛装備品の国際共同開発の経験を豊富に持つフランスとドイツならではの“知恵”と言えるでしょう。

 途中から参加したスペインがどのような役割を果たすのかは明確にされていませんが、スペインの航空機メーカーで、ユーロファイターの共同開発にも参加したCASA(Construcciones Aeronauticas S.A.)は、現在はエアバスに吸収されており、摩擦が生じる可能性は低いと考えられます。

トルコ国産戦闘機の目指すものとは?

 今回の「パリ国際航空宇宙ショー」ではFCASだけでなく、トルコが開発を進めている国産新戦闘機「TF(Turkish Fighter)」の実物大モックアップもお披露目されています。

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TAIが「パリ国際航空宇宙ショー」でお披露目した国産戦闘機「TF」の、実物大モックアップ(竹内 修撮影)。

 このモックアップの外観はF-22によく似ており、F-22と同様、胴体内に兵装を収容する「ウェポンベイ」も備えています。サイズも全長19m(F-22は19.56m)、翼幅は14m(同13.11m)とF-22にかなり近く、最大速度もF-22と同じマッハ2.0と発表されており、トルコ版F-22を目指している戦闘機なのではないかという印象を筆者は受けました。

 TFの開発を主導しているトルコの航空機メーカーTAI(Turkish Aerospace Industries)は「パリ国際航空宇宙ショー」の会場で、2023年に初号機を完成させ、2025年に初飛行。2029年に部隊配備を開始するという、最新の開発計画を発表しています。

 今回の「パリ国際航空宇宙ショー」の会場で姿を現したふたつの新戦闘機のうち、FCASは、2018年7月に開催された「ファンボロー国際エアショー」でイギリスが開発計画を発表した「タイフーン」を後継する新戦闘機「テンペスト」と同様、空の戦いのあり方を変える「ゲームチェンジャー」たらんという戦闘機です。一方のTFはゲームチェンジャーではなく、F-22やF-35などに代表される「第5世代戦闘機」を目指しています。ただ、両者とも方向性は異なっているものの、どのような戦闘機が自国に必要であるかをはっきりと定め、どのようなそれをいつまでに実用化するかを明確にしている点は共通しています。

 冒頭でも述べたように、日本のF-2後継機の方向性は定まっていませんが、多少実用化の時期が遅れてもFCASや「テンペスト」のようなゲームチェンジャーを目指すのか、それともTFのように、F-2の退役が開始される2030年代前半までに実用化が見込める、地に足の着いた戦闘機を目指すのかという明確なコンセプトが存在しないが故に、方向性が定まらないのではないかと筆者は思いますし、航続距離や速度、レーダーの探知性能といった性能よりも先に、どのような戦闘機とするかを定める必要があるとも思います。

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