高速バスはほかの交通機関と比べて、女性の利用率が高いというデータが存在します。バス会社によっては利用者の7割が女性というケースもあり、女性専用席、女性専用車などのサービスも導入されていますが、それだけでは説明がつかなさそうです。

「女性専用車」も登場する背景

 高速バスは、ほかの公共交通機関に比べ、女性の利用率が高いというデータがあります。

 国土交通省が5年に1度実施している「全国幹線旅客純流動調査」第5回(2010年調査)のパンフレットによると、航空、鉄道における女性の利用率は平日で3割前後、休日は40%台後半ですが、幹線バス(高速バスなど、都道府県をまたいで走る路線バス)においては、平日でも女性の利用が54.2%、休日は57.2%を占めるそうです。航空や鉄道と幹線バスとのあいだには、女性の利用率に明確な差が存在します。

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ウィラーの3列シート「ラクシア」搭載車両。同社は利用者の約7割を女性が占めるという(2016年9月、中島洋平撮影)。

 たとえば、東京~大阪間などの長距離を結ぶ夜行路線では、たしかに女性向けの施策が目立ちます。

JRバスでは夜行便「ドリーム号」シリーズに、「レディースドリーム号」などの女性専用車を設定しているほか、いくつかの路線で車内の一画に女性専用席を設けています。このような「女性専用車」や「女性専用席」、あるいは女性の隣席は必ず女性になることが確約される「女性安心コース」といったメニューは、多くの高速バス予約サイトで検索条件として設定できるようにもなっているのです。

 平成エンタープライズ(埼玉県富士見市)が運行する首都圏発着の夜行便を中心とした高速バス「VIPライナー」では、女性の利用者が7割を占めるといいます。なぜ女性の利用者が多いのか、同社は次のように話します。

「女性がバスを利用するのは『面倒な乗り換えがなく目的地へ直通できる』『価格が安い』といった理由のほか、『旅行が好き』『自分でクルマを運転しない』といった点が挙げられるでしょう。当社の場合はこれに加え、女性専用車があることや、主要な乗降地に設けている待合所『VIPラウンジ』で、乗車前、乗車後までサービスがあることも大きいです」(平成エンタープライズ)

 同社の「VIPラウンジ」には化粧品や美容器具、ドライヤーなども備えているそうです。

昼行便でも女性比率は高い?

 一方、お昼の時間帯に運行される「昼行便」では、女性に特化したサービスはあまり見られません。

 バス事業のコンサルタントである高速バスマーケティング研究所代表の成定竜一さんによると、「全国幹線旅客純流動調査」が対象としている幹線バスにおいて、女性向けのサービスがあるような長距離の夜行便は、そもそもの運行便数が少ないといいます。高速バスで輸送人員が多い路線は、たとえば山形~仙台間や東京~木更津間、福岡~熊本間など、おおむね所要2時間までの高頻度で運行される昼行便であり、仮に夜行便で女性の比率が高いといっても、高速バス全体で見れば微々たる数字というわけです。

 関東で輸送人員の多い東京~木更津間や、東京~鹿島神宮間などの路線を運行する京成バスも、長距離夜行便ではどちらかというと女性をターゲットにしているものの、昼行便では特にそうした施策はとっておらず、「見ている限り昼行便の男女比率に大きな差はないでしょう」と話します。

高速バス、なぜ女性利用率が高いのか? 女性向けサービスだけでは説明つかぬ理由

東京駅~鹿島神宮間を結ぶ「かしま号」。1日88往復と、関東の高速バスでは最も本数が多い路線(2016年9月、中島洋平撮影)。

 では、「全国幹線旅客純流動調査」において幹線バスの女性利用率がほかの交通機関と比べて高いことは、何を意味するのでしょうか。成定さんは、上に挙げたような「高速バスの輸送人員が多い区間」、すなわち高頻度で運行される比較的短距離の路線で、「男性はマイカーの利用率が比較的大きく、女性は公共交通の比率が大きい、という仮説は成り立つでしょう」といいます。

実際、「全国幹線旅客純流動調査」では公共交通機関だけでなく「乗用車等」も含めて男女比を比較していますが、その利用比率は男性が8割程度を占めています。また、運転免許保有者の構成率も、男性が約55%に対し、女性は約45%(2015年度末時点)と、女性のほうが少ないのです。

 高速バスで輸送人員の多い区間は多くの場合、鉄道と競合していますが、「自分でクルマを運転しない」という女性が公共交通機関のなかでも高速バスを選ぶ傾向があり、そのことが「全国幹線旅客純流動調査」の数値を押し上げている可能性がある、といえるかもしれせん。「もしそうだとすると、『高速バスブーム』といわれた1980年代から現在に至るまで、特に傾向は変わっていないでしょう」と成定さんは話します。

※一部修正しました(7月27日12時15分)。