東北・上越新幹線のE1系は、新幹線で初めて編成中すべての車両を2階建て構造にした電車です。機器類の小型化や軽量化の技術向上を取り入れて全車2階建て化を実現。

座席の数も大幅に増やし、新幹線に起こった利用形態の変化に対応しました。

座席数が1.4倍に

 1994(平成6)年、東北・上越新幹線に2階建て車のE1系電車「Max」がデビューしました。新幹線初の2階建て車を連結した100系電車が東海道・山陽新幹線でデビューしてから約10年後のことです。

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上越新幹線を走るE1系(画像:photolibrary)。

 100系は16両編成中2両または4両だけ2階建て車を連結。のちに東北新幹線の200系電車も2階建て車を組み込んでいます。しかし、全長約300mに及ぶ12両編成のE1系は「全車」2階建て。その高さは約4.5mで、ホームにE1系が停車すると、まるで全長約300mの城壁がそびえ立っているように見えました。

 100系はモーターの出力向上や機器類の小型化、軽量化で客室に使えるスペースを広げて一部の車両を2階建てにしましたが、E1系は技術の向上で出力アップや機器類の小型化をさらに推進。これにより客室スペースを大幅に増やし、全車2階建てを実現しています。一方、最高速度は240km/hで、走行性能は従来車の200系や400系とほぼ同じです。

 普通車は1~4号車の1階席と5~12号車(グリーン席が設けられている9~11号車の2階席を除く)が従来通り5列のリクライニングシート。

しかし、自由席として使われる1~4号車のうち2階席は1列多い6列で、リクライニングしません。

 一方、座席の数は2階建てによる客室スペースの拡大で大幅に増加。12両編成1本で普通車1133人、グリーン車102人の合計1235人になりました。200系の定員が12両編成の場合で895人でしたから、それの約1.4倍です。

 ここまで座席を増やした背景には、通勤客の増加があります。比較的長い距離を移動するビジネス客や観光客の利用が多い新幹線ですが、1983(昭和58)年に新幹線定期券「FREX(フレックス)」の発売が始まり、1980年代後半にはバブル景気による地価高騰で通勤客が増加。朝夕のラッシュ時に混雑するようになったため、座席の数を増やしたE1系が開発されたのです。

付け方が変わった形式名と独自の愛称

 また、2階建てのためデッキと客室を結ぶ通路は階段で、車内販売のワゴンが通れません。そのため売店と自動販売機を充実させています。自動販売機では弁当を売っていましたが、利用者が少ない割に弁当の補充に手間がかかり、のちに撤去されました。

東北・上越新幹線「E1系」どんな車両だった? 初の全2階建て 愛称は「Max」 6列席も

田園地帯を走るE1系(画像:photolibrary)。

 ちなみに、1980年代以降の新幹線車両の形式名は100系、200系、300系というように数字3桁で表記し、E1系も当初は「600系」を名乗る予定でした。

しかしこのころ、JR東日本は形式名の付け方を変更。アルファベットの「E」と数字を組み合わせることになったため、「600系」ではなくE1系を名乗ることになりました。「E」は「East」から取っています。

 また、E1系には「Max」という愛称も付けられました。車両が完成したときは「Double Decker Shinkansen」、略して「DDS」という愛称が付けられ、そのロゴマークも車体に描かれていましたが、営業運転の開始までに「Max」という愛称に変わっています。こちらは「Multi Amenity eXpress」の略です。

 E1系を使う列車は「Maxやまびこ」「Maxとき」というように、列車名に「Max」を冠しました。これはE1系に続いて製造された2階建て車のE4系電車を使う列車も同じ。「Max」はJR東日本の2階建て新幹線車両の代名詞になりました。

 E1系は1994(平成6)年から1995(平成7)にかけて72両(12両編成6本)が製造されたにとどまり、その後はE1系の改良タイプといえるE4系の製造に移行。2003(平成15)年のリニューアルに伴い、灰色と白、緑の車体塗装が青と白、ピンク(トキ色)に変わりました。2012(平成24)年に引退しましたが、先頭車1両が鉄道博物館(さいたま市大宮区)で展示されています。

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