JR九州が、787系特急形電車を観光列車「36ぷらす3」に改造する作業を開始。同社の青柳社長は、787系「つばめ」はJR九州の命運をかけた列車と、デザイナーの水戸岡さんは、これがなければいまの自分はなかったと、感慨深く語りました。
「JR九州の命運をかけた列車でした」(JR九州 青柳俊彦社長)
「これに失敗していたら、いまの自分はありませんでした」(工業デザイナー 水戸岡鋭治さん)
ふたりがそう振り返る車両、787系特急形電車を、同社では3年半ぶりとなる新しい観光列車「36ぷらす3」に改造する様子が2020年1月29日(水)、JR九州の小倉総合車両センター(北九州市小倉北区)で報道陣へ公開されました。
「36ぷらす3」に改造中の787系特急形電車(2020年1月29日、恵 知仁撮影)。
JR九州の787系は1992(平成4)年、九州の大動脈である福岡~熊本~鹿児島間を結ぶ在来線特急「つばめ」としてデビュー。九州新幹線がなかった当時、JR九州にとって、鉄道でいちばん頑張らねばならなかったのは、大量高速輸送の在来線特急列車。そうしたなか「乗りたい」と思ってもらえるよう、新たに送り出した787系「つばめ」は重要な列車(車両)だったと、JR九州の青柳社長は話します。
また、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」をはじめ、現在では国内各地の鉄道車両やバス、船などをデザインしている水戸岡鋭治さん(ドーンデザイン研究所)が、車両製作の初期段階から関わった初めての車両が、この787系です。
「車両のことを知らないなか、試行錯誤でできあがりました。いちばん思い出が深い大切な車両です」(工業デザイナー 水戸岡鋭治さん)
「始まりの列車」だった787系 いま見てもよくできた車両1992年(平成4年)に登場したJR九州の787系「つばめ」は、ホテルのような落ち着いた車内空間、ビュフェなどの充実した設備、客室乗務員「つばめレディ」によるサービスなどを持ち、当時高校生だった私(恵 知仁:鉄道ライター)は、かつての国鉄車両、また昭和の雰囲気とかけ離れた車両(列車)の出現に、大いに興奮したことを覚えています(国鉄は1987〈昭和62〉年にJRへ分割民営化)。
787系は、日本の鉄道業界では歴史のある「ブルーリボン賞」、そして国際的なデザインコンペである「ブルネル賞」を受賞。のちに個性的として広く知られることになるJR九州の特急列車群、その流れに大きな弾みをつけました。

「36ぷらす3」に改造中の787系特急形電車とJR九州の青柳社長(左)、水戸岡さん(2020年1月29日、恵 知仁撮影)。
豪華寝台列車に和風新幹線800系、革張り木製座席の通勤車両と、個性豊かな色とりどりの車両が行き交う現在のJR九州、そして日本を代表する鉄道車両デザイナーのひとりである水戸岡鋭治さん。
「いま見ても787系はよくできた車両だと思います。さわりたくない(改造したくない)気持ちもありますが、それがデビューしたときの感動を考えると、新たな感動を提供したいとも思います」(工業デザイナー 水戸岡鋭治さん)
今回、小倉総合車両センターで改造中の787系を見て、青柳社長と水戸岡さんは30年前を思い出しながら、「これが始まりの列車だった」とふたりで懐かしんだそうです。
そして登場から28年。九州新幹線にその役目を譲った787系が今年、観光列車「36ぷらす3」として新たな出発を迎えます。
787系「36ぷらす3」どんな列車に? 料金は乗りやすく787系特急形電車を改造して登場する、新しいJR九州のD&S列車(観光列車)「36ぷらす3」。その名前は、世界で36番目に大きな島である九州の全県をめぐること、そして「39(サンキュー、感謝)」の輪を広げていくことなどが由来。「九州のすべてが、ぎゅーっと詰まった“走る九州”といえる列車」がコンセプトです。
編成は6両。全車がグリーン車(個室あり。席数103を予定)で、共用スペースの「マルチカー」も1両が用意されるほか、営業が終了していたビュフェも17年ぶりに復活します。
運行は5日間かけて九州を一周する形で、各日単位での乗車が可能。

「36ぷらす3」に改造中の787系特急形電車(2020年1月29日、恵 知仁撮影)。
「(料金が高額な『ななつ星in九州』とは違い)『36ぷらす3』は『みんなの車両』です。最高の時間と空間を提供できる車両にしたいです」(工業デザイナー 水戸岡鋭治さん)
「この30年のスタートになった787系を使って、水戸岡さんと最高のものを作れれば」(JR九州 青柳俊彦社長)
JR九州の命運がかけられた車両で、「水戸岡デザイン」と呼ばれる数多くの車両が各地に登場する大きな契機になった、787系特急形電車。いわばそれに新たな命を吹き込んだ、JR九州3年半ぶりの観光列車「36ぷらす3」は、2020年秋に運行開始予定です。