航空自衛隊が運用する民間旅客機ベースの要人輸送機である政府専用機は、「日本版エアフォースワン」と形容されるなど比較的知られていますが、同じく要人輸送に特化した特別輸送ヘリコプターが陸上自衛隊で運用されています。

千葉県木更津にわずか3機しかないレア機

 天皇、皇后両陛下をはじめ首相や政府要人などが外国を訪問する際に用いられる、航空自衛隊が運用する政府専用機は広く知られますが、陸上自衛隊にも、そのヘリコプター版といえる「特別輸送ヘリコプター」があります。

理由は「唯一のフランス製」 陸自のヘリ版政府専用機 特別なの...の画像はこちら >>

演習場に着陸し防衛大臣を乗せるEC-225LP。機内には操縦士2名のほかに、最大20名を収容可能(柘植優介撮影)。

 特別輸送ヘリコプターの機種は、フランスにある多国籍航空機メーカー、ユーロコプター(現エアバス・ヘリコプターズ)が開発したEC-225LP大型ヘリコプターです。陸上自衛隊が現在、運用するヘリコプターのほとんどが、アメリカ機もしくは国産機のなか、フランス生まれの機体というのはEC-225LPが唯一です。部品の互換性や整備性などを考えると、デメリットもありそうですが、なぜ採用されたのでしょうか。

 その理由は、本機の前に導入され運用されていた初代特別輸送ヘリコプター「AS 332L」が、同じくフランスの航空機メーカーであるアエロスパシアル(現エアバス・ヘリコプターズ)製だったからと推察されます。

 先代も現用機も、特別輸送ヘリコプターは政府専用機と同様、旧総理府、現内閣府の予算で購入され、そののち防衛省に移管され、各自衛隊機として運用されています。

 そのため、機種選定に防衛省および陸上自衛隊が関わることはなく、様々な理由から特別輸送ヘリコプターはフランス製の機体に決まったようです。そして後継機種についても内閣府が選定し、その予算で購入することになったことから、同じフランス製のEC-225LPが選ばれたようです。

 EC-225LPは、木更津駐屯地に所在する第1ヘリコプター団の特別輸送ヘリコプター隊で一括運用されています。

陸上自衛隊のほとんどの航空機は「ヤード・ポンド法」が基準

 通常、陸上自衛隊のヘリコプターは、少数の例外を除けば迷彩塗装が施されますが、EC-225LPの外観は白と灰色、青の3色を基調にした明るいカラーリングで、機体側面には目立つ形で陸上自衛隊のシンボルマークも描かれています。

理由は「唯一のフランス製」 陸自のヘリ版政府専用機 特別なのは用途や内装のみならず

ホームベースである木更津駐屯地に3機並んだEC-225LP(柘植優介撮影)。

 機内はアイボリーで、シートは革張り、サイドテーブルなどには木目調パネルも使われており、カーテンもあります。空調や衛星通信装置も搭載するほか、防音にも留意されており、機内は普通に会話が可能なレベルまで騒音が抑えられています。

 しかしフランス機ということで、陸上自衛隊で大多数を占めるアメリカ製ヘリコプターとは異なる部分もあるようです。

 外見からでもわかるのはメインローター、すなわち機体上部にある回転翼の回る方向でしょう。陸上自衛隊が保有するアメリカ製の機体はもちろん、国産のOH-1ヘリコプターもメインローターは反時計回りなのに対し、EC-225LPは逆の時計回りです。

 また部品や工具などが、アメリカ製の機体のものは「ヤード・ポンド法」で規格統一されているのに対し、EC-225LPはフランス製ということで「メートル法」を基準に製造されており、パーツや工具の互換性がありません。

 それ以外の特徴としては、要人輸送では安全性が最優先されることから、海上や湖面に不時着しても大丈夫なように、機体下部に着水を感知すると自動的に開くフロート(浮舟)が装備されています。

 なお、運航時は可能な限り予備機も同行し、2機ひと組で行動します。その点は政府専用機と同じといえるでしょう。

 EC-225LPは現在3機運用されています。陸上自衛隊の航空機のなかでは試験機を除くともっとも数が少ないですが、国内外の要人を運ぶために、常に万全の態勢で日本の空を飛び続けています。

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