西武鉄道は、ほかの自社路線と接続しない多摩川線を持つことで知られますが、そうした飛び地路線が西武バスの路線バスにも存在します。しかも、新宿駅と池袋駅という、西武が2大ターミナルを構えるエリアを結ぶ路線です。

西武バスで唯一生き残った都心部路線「宿20」

 池袋線、新宿線を中心に路線網を形成する西武鉄道は、ほかの自社路線との接続がない多摩川線(武蔵境~是政)を持つことでも知られますが、こうした「西武の飛び地路線」は路線バスにも存在します。しかも、西武線の2大ターミナルがある新宿と池袋を結ぶ路線です。

 この西武バス「宿20」系統は、新宿駅西口のバスターミナルから青梅街道を西へ、中野坂上から山手通りを北へ進み、JR中央線の東中野駅、西武新宿線の中井駅(いずれも都営大江戸線が並行)、JR山手線の目白駅を経て、山手線の内側に入りつつ、池袋駅東口までを結びます。終点のバス停は、都営バスなどはそのまま「池袋駅東口」としているところ、西武バスは路線図や案内放送などで「西武百貨店前」としています。

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池袋の西武百貨店前を発車する西武バス「宿20」(2020年4月、中島洋平撮影)。

 運行を担当するのは、練馬区内の環八通り近くに位置する西武バス練馬営業所です。同社のおもな路線は、練馬駅よりも西側に形成されていますが、この宿20系統のみ、路線網から大きく東へ外れた区間を結んでいるのです。

 西武バスによると、「およそ1950年代から60年代は、都営バスや関東バスと共同運行というかたちで、宿20系統以外にも豊島園~新宿駅西口などの都心部路線がありました」といいます。宿20系統はそうしたなか、ただひとつ「生き残った」系統とのこと。「現在こそご利用は少ないものの、昔はそこそこ多かった」のだそうです。

路線名は「中井線」 当初は池袋~中野坂上

「宿20」の運行開始は1955(昭和30)年12月のことで、誕生の背景には現在の山手通りの整備が関わっています。

 昭和20年代、山手通りは神田川のそばに位置する中井駅の前後で分断されていたところ、進駐軍の特命により陸橋が架けられたことをきっかけに、西武バスが「中井線」として路線バス開設の免許を国へ申請したそうです。

当時の申請文書を見ると、池袋側から山手線や現在の西武池袋線、西武新宿線、中央線、そして当時青梅街道沿いを走っていた路面電車の西武電車(のちの都電杉並線。新宿~荻窪)など、複数の路線を連絡する効率のよい路線、としています。

 運行開始当初は池袋駅東口から現在の中野坂上までの区間で、およそ1年強を経たのち新宿駅西口まで延伸されました。前出した豊島園~新宿駅西口の路線が、関東バスと共同運行により、すでに開設されていたことが有利に働いたようです。

「西武の飛び地路線」バスにも 新宿~池袋「宿20」 2大ターミナル結ぶ路線がなぜ?

新宿駅西口のバスターミナルに停まる西武バス(2020年3月、中島洋平撮影)。

 しかし、こうした西武線エリアから池袋や新宿に直通する路線バスのほとんどは、「自家用車の普及による道路事情の悪化や、路線整理などで徐々に廃線となりました」(西武バス)といいます。宿20以外で池袋に発着していた「練45」系統(練馬駅~池袋駅東口)が2008(平成20)年に廃止されたことで、宿20系統が現在のような孤立路線になりましたが、この練45系統も、実質的には宿20系統の車庫回送を兼ねたもので、朝と夜の1本ずつだけ運行されていたものです。

 宿20系統について西武バスは、「西武グループの本社がある池袋の路線は基本的に継続させる考えがあるため、現在も運行しています」と話します。

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