鉄道会社にとって車両は商品のひとつです。アピールするうえで、カラーやデザインだけでなく、性能面でも特徴的なものがあります。

なかには会社の思いや方針が表れたものも。普段乗る通勤形車両も例外ではありません。

「乗ってみたくなる」デザインで統一 JR九州

 鉄道車両は鉄道会社にとって、重要な商品のひとつ。数ある移動手段のなかから鉄道を選んでもらうべく、より魅力的で利用しやすい車両の開発に努めています。

 観光列車はアピール性の強い外観、乗ってみたくなる快適な設備などで乗客に魅力を訴求する一方、通勤輸送が主流の路線では、一見しただけではわからないポリシーを持ってデザインされている車両もあります。さらに企業イメージ、ブランドとして車両のカラーや設備、性能をデザインしている鉄道会社もあり、そのアピール方法は千差万別です。

 ここでは、鉄道各社の思いがデザインに表れている車両を紹介します。

観光列車のみならず 「社の思い」が表れた鉄道車両選 デザイン...の画像はこちら >>

シンプルな造形の車両に特徴的な装飾をまとうことで「乗ってみたくなる車両」をデザインしたJR九州の一般形車両(2012年9月、児山 計撮影)。

 車両のスタイリングで脚光を浴びた例としては、JR九州の車両が挙げられます。ドーンデザイン研究所の水戸岡鋭治氏が、JR九州全体を統一したコンセプトでデザイン。車両面においてはD&S(デザイン&ストーリー)というコンセプトを掲げ、特急形車両だけでなく一般形車両までもインテリア、エクステリアとも「乗ってみたくなる車両」をデザインしています。

 一見、派手な列車が多いJR九州ですが、在来線の車両をベースに改造するなど、製造コストを抑える工夫もされており、限られた予算内で集客効果の高いデザインを生み出している点にも注目したいところです。

 この「鉄道会社全体を統一したデザインでまとめる」という手法は、最近では小田急電鉄の特急ロマンスカーや相模鉄道、京阪電鉄なども取り入れており、鉄道会社のブランドを周囲に認知させることで、沿線価値の向上が期待されています。

伝統となったカラーリング 阪急や東海道新幹線

 鉄道ファンならずともよく知られた伝統といえば、阪急電鉄の車両が挙げられます。艶のあるマルーンカラーの電車に乗り込むと、木目模様の壁とアンゴラ山羊の毛で作られたゴールデンオリーブの座席が目に飛び込んできます。

 このデザインは、100年近く続いた阪急電鉄の伝統ともいえるもので、もはやひとつのブランドとしての地位を築いています。過去に車体の塗装を一新する計画もありましたが、いずれも実現に至っていないことからも、この「阪急デザイン」が多くの人に愛されていることがわかります。

観光列車のみならず 「社の思い」が表れた鉄道車両選 デザインや性能 ひいては伝統に

マルーンカラーにアルミの窓枠というフォーマットは、1960(昭和35)年の2000系や2300系から続く伝統(2007年8月、児山 計撮影)。

 JR東海の東海道新幹線も、会社の思いが徹底して車両に表れています。新幹線のなかでもっとも長い歴史を持つ東海道新幹線は、ほかの新幹線に比べてカーブがきつく、スピードを出しにくい箇所がある一方で世界有数の高需要路線でもあるため、高速運転をし、列車本数を増やす必要があります。

 そのため、徹底的なトータルでの性能と輸送力重視で車両をデザイン。座席数は300系車両から16両で1323席とされ、ダイヤが乱れた際に車両の融通がしやすいよう配慮されました。カーブの多い区間でも高速運転ができるよう、車体傾斜システムの導入や加速性能、ブレーキ性能の強化など、性能面で工夫が凝らされています。

 一方で車両の塗装はかねてから、ホワイトボディに青のライン。

他社の新幹線車両がカラフルなだけにそのカラーリングは一層際立ちます。この車体色は、JR東海の須田寛会長のポリシーであり、特に青色は色調を変えることも許されないそうです。

シンプルイズベストのデザイン コスト削減で運賃に還元

 印象的な塗装や派手な装飾ばかりがデザインではありません。シンプル、簡素に徹底するのもまたデザインといえます。

 東急電鉄の車両は、1992(平成4)年製造の2000系まで、正面は平らな切妻構造、側面も銀色の無塗装ボディに赤いテープを張り付けただけというシンプルさが伝統でした。これは当時、東急電鉄の「車両の形状はシンプルにして製造コストを下げる」という考えに基づいています。

観光列車のみならず 「社の思い」が表れた鉄道車両選 デザインや性能 ひいては伝統に

シンプルな切妻形状や、省エネルギーに寄与する制御機器のいち早い採用など、「経済性で乗客に還元」したデザインの東急9000系(画像:写真AC)。

 さらに東急電鉄はステンレスボディを採用して軽量化したり、制御装置も省エネタイプのものをいち早く採用したりするなど、製造、運用コストの削減を徹底しており、コスト削減の分は安い運賃や快適な設備として乗客に還元されます。徹底的なコスト削減によるデザインも、乗客本位のデザインであることには変わりないのです。

 地域に根ざして運営する鉄道事業では、地域性や会社の方針などが鉄道車両に反映されるケースがまま見受けられます。

 現代では製造コスト削減の観点から、車両メーカーの提案する標準型車両の同輩が増えていますが、そういった車両でも、会社の個性や独自のデザインが垣間見える車両は少なくありません。

 列車に乗るとき、そういった「鉄道車両のデザイン」に注目してみると、意外な発見があるかもしれません。

編集部おすすめ