新型コロナの影響で全国の図書館が長期閉鎖されるなか、ドライブスルーによる貸出など、クルマに着目して一部サービスを再開する動きが見られます。市民の声を受けた形での対応ですが、これを機に、図書館が変化する可能性もあります。
新型コロナウイルスの影響により、2020年5月現在、多くの図書館が臨時閉館しています。東京都立図書館などは2月末から閉館しており、政府の緊急事態宣言が出た4月以降は、全国に拡大しました。このため記者やライターからも、調べものに難渋しているといった声が多く聞かれます。
そうしたなか、館外にカウンターを設け、予約図書の貸出のみを行うなどして一部サービスを再開するところも見られます。山口県の宇部市立図書館はそれに加え、市内の2館において、クルマに乗ったまま本を借りられるドライブスルー方式を4月下旬に導入しました。
大型連休明けには福井市立図書館でも一部の施設でドライブスルー方式を始めたほか、茨城県の常総市立図書館も今後、特定の日に実施する予定で、その動きが広まっているようです。
2020年5月現在、全国的に図書館が臨時閉館している。写真はイメージ(画像:写真AC)。
「本が読みたい、何とか工夫して本を貸し出してもらえないか、といった市民の声を受けて実施しました。当館の場合は、入口に続く長い進入路があり、縦列で10台くらい駐車が可能です。これを活かせるのではないかと考えました」(宇部市立図書館)
宇部市立図書館のドライブスルーサービスは、インターネットで図書の予約を受け、準備ができ次第メールなどで利用者に知らせ、開館時間内に取りに来てもらう方式だそうです。通常、予約の翌日には受け取れるものの、利用が集中すると判断した場合は、日をずらして準備完了を知らせていることもあり、多いときでも車列は6、7台だといいます。
同図書館ではこのサービスを、臨時閉館する5月24日(日)まで続ける方針で、通常どおりの開館を再開した後の継続は考えていないとのこと。「予約図書を1冊ずつ書架から取りに行くので手間がかかるうえ、予約図書の置き場にも限りがあります。本来、書架から自由に本を選んでいただくのが、お互いにとってよいことです」と話します。
図書館員による「本の宅配」サービスも一方、兵庫県の相生市立図書館では、本を取りに来てもらうのではなく、予約図書を利用者の自宅へ届けるサービスを5月7日(木)から始めました。ウェブサイトでは、「図書館スタッフが宅配いたします。不慣れなため、道をお尋ねしたり、時間がかかったりすることがあるかもしれません」としています。
この4月から相生市立図書館の指定管理を受託したシダックス大新東ヒューマンサービスによると、ドライブスルー方式も検討はしたものの、図書館の立地の問題や、渋滞による周辺道路の影響を考慮し、相生市と協議のうえ見合わせたそうです。
そこで臨時休館中のサービスとして「図書の宅配」を始めたそうですが、これはもともと、指定管理を受託する際に企画のひとつとして市へ提案しており、それが新型コロナの影響により、前倒しで始めることになったのだとか。「市民、利用者の皆様に少しでも喜んでいただきたい」との思いだといいます。
「図書の宅配は、身体の不自由な方など、図書館に来館したくてもできない方に向けたサービスとして、2020年度秋から実施予定でした。当社が受託運営を行う他館で同サービスを行っており、大変喜ばれましたので、この事例を水平展開しました」(シダックス広報)
なお相生市立図書館における図書の宅配サービスは、相生市民で図書カードを持っている人が対象で、電話と同図書館WEBサイトで予約を受け付けています。現在のところ5月末までの臨時休館中のみの実施を予定してはいるものの、通常どおりの開館を再開した後も状況が整い次第、当初の通り身体の不自由な人などを対象に実施予定とのことです。
大型連休中に政府は、図書館や博物館など公共施設の利用制限を一部緩和する方針を打ち出し、5月11日(月)の週から通常開館を再開しているところもあります。緊急事態宣言下で始まった、図書館におけるクルマに着目したサービスが、「新型コロナ後」につながっていくかもしれません。