新型コロナウイルス感染拡大防止のため、人々が外出を自粛した2020年春、鉄道各社の運輸収入は大幅に減りました。緊急事態宣言を受け列車は運休や減便になりましたが、少しでも支出を抑えたいさなか、コスト削減に寄与したのでしょうか。

「装置産業」たる鉄道 メンテナンスコストなど固定費がかかる

 2020年5月25日(木)に緊急事態宣言がすべて解除され、新型コロナウイルスの流行は、終息とまではいかずとも一時と比べて小康状態となりました。鉄道の運行についても、5月中は多くの事業者において運休や減便ダイヤへの変更が行われましたが、少しずつ通常ダイヤへ戻る動きも出ています。

列車減便でコスト削減なるか 電気代 人件費…鉄道運行の仕組み...の画像はこちら >>

車両基地に並ぶ新幹線車両。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 一方、利用者の減少により運輸収入もかなり落ち込み、各社は少しでも経費を節減しなければなりません。では、果たして列車減便を行ったことで、コスト削減につながったのでしょうか。

 簿記や経営に詳しい人、商売をしたことがある人ならばイメージがつきやすいかもしれませんが、企業の費用は大きく、固定費と変動費に分けることができます。

 固定費は基本的に毎月必ず発生するのに対し、変動費は売り上げの増減に応じて変動する費用なので、どれだけサービスを提供したかによって変わる費用です。鉄道はいわゆる「装置産業」であり、大規模な設備や施設を必要とします。

 そのため、鉄道を運営するためにかかる車両や施設のメンテナンスコスト、減価償却費(取得時の支出を使用可能期間で毎年分けて計上する費用。たとえば一般的な電車の耐用年数は13年)、さらには人件費までもほぼ固定費としてかかってきます。

 事業者によっては、社員の一時帰休やそれにあわせた政府の「雇用調整助成金」の活用、さらには終電繰り上げの措置をとることで、深夜労働(午後10時から午前5時まで)や乗務手当にかかる人件費などを抑えられることは考えられますが、大きな節減にはつながりません。

外出抑止の効果あり? 第2波、第3波への備え

 ほかにも電車を動かさないことで、電気代や燃料費を指す「動力費」は削減できますが、電力会社との固定料金がかかる場合は、限定的な減便ではほんの一部にすぎないのが現実です。ただし、収入の方で大幅な減少が続くため、少しでも経費削減に努めなければならないのも現実です。

列車減便でコスト削減なるか 電気代 人件費…鉄道運行の仕組みから見るその悩ましい点

ホームの床下を通っている高圧配電ケーブルを点検する様子(2018年2月、恵 知仁撮影)。

 さて、鉄道の運行は運用計画のもとに成り立っていますが、乗務員も車両も、前の列車から次の列車への「つなぎ」を作る必要があります。

 たとえばある運転士がA駅からB駅まで乗務して、本来ならば次はB駅からC駅までが担当だったのに、減便により当該列車が運休になってしまえば乗務できず、さらに次のC駅からの乗務へつなぐことができません。

 このような乗務員および車両の運用組み合わせについても、減便においては改めて考え直さねばならないので、上手くつなげられなければ結果として乗務員が待機するだけになったり、車両も無駄な回送が発生したりと、効果的な減便にならないこともあります。単純に減便本数の比率でコスト削減ができるわけではありません。

 減便の話題が世に出はじめた2020年4月上旬、大阪メトロが減便を行いましたが、コスト削減というよりも利用者の外出を抑止する効果を狙ったものでした。結果として効果的だったようで、「計画運休」と同じようにあらかじめ運行計画を利用者に知らせるようなこともできます。今後、仮に新型コロナ感染拡大の第2波、第3波がやってきた際には、減便という手法を上手く使っていけるかどうかも注目です。

編集部おすすめ