乗合バス事業を独占禁止法の適用対象外とすることが国会で可決・成立しました。バスの経営環境が厳しさを増すなか、これまでは競合する事業者どうしが協力しようにも、独禁法が壁になっていましたが、今回の法改正で何が変わるのでしょうか。
路線バス事業にまつわる諸法令が、近く大幅に改正されます。これらにどう対応するか、国や研究者、交通事業者などからなる公共交通マーケティング研究会が5月29日(金)、改正のポイントを話し合うオンラインフォーラムを開催し、890人が参加しました。
改正ポイントのひとつは、乗合バスにおける独占禁止法の適用除外です。乗合バス事業は、国民生活や経済活動の「基盤的サービス」であるものの、人口減少によりサービスを持続的に提供することが困難な状況にあることから、5月20日(水)、地方銀行とともに独占禁止法の対象外とすることが国会で可決・成立しました。これにより、乗合バス事業の「共同経営」が可能になるといいます。
路線バスの共同経営化が計画されている熊本の路線バス。乗合バスの独禁法適用除外が、これを後押しすると見られる(画像:photolibrary)。
たとえば、同じ路線で複数事業者が競合し、バスの発着時間帯に偏りが生じているような場合、これまでは、独禁法のカルテル規制に抵触するおそれがあることから、事業者間での運行調整にはなかなか至らなかったといいます。今回の法改正により、競合事業者どうしで運行を調整し、運賃収入をプールして各事業者へ配分したり、共同出資した会社に運行を担わせたりすることが可能になります。
福島大学准教授の吉田 樹さんによると、これまでの枠組みにおいても、複数事業者の「共同運行」という形で運行を調整した事例はあるといいます。青森県八戸市の市街地では、複数の系統が同じ路線を走ってバスが過密状態になっていたところ、ダイヤを10分間隔に平準化し、総運行回数を減らしつつバスが来るタイミングをわかりやすくしたことで利便性を向上させ、黒字化も達成したそうです。
「従来、運行本数を『減らす』ことは認められにくかったのですが、今回の法改正は路線や区間を定めたうえで『束ねて減らす』ことがしやすくなります」(吉田准教授)とのこと。
なお熊本ではすでに、路線バスを運行する5事業者が共同経営化に向け、準備室を立ち上げています。熊本市街地の運行を共同出資の会社に担わせ、運行を効率化し、それによって捻出された人員や車両で、過疎地域のサービス向上につなげる狙いです。
複数事業者を巻き込んだ「バスのサブスク」も可能に吉田准教授によると、事業者どうしで運賃を調整し、収入配分を決められるようになることで、区域を定めて複数事業者のバスを定額制で乗り放題にするといったサブスクリプションサービスも打ち出しやすくなるといいます。その先には、いわゆる「MaaS」があるとのこと。
「Mobility as a Service」の略である「MaaS」は、飛行機から電車、バス、タクシー、自転車など、あらゆるモビリティ(移動)をひとつのサービスと捉える考え方です。様々な交通や観光サービスを連携させたスマートフォンアプリなども、MaaSのひとつとされており、近年、世界的に研究や取り組みが進められています。
これを見据え、地域においてバスだけでなく、鉄道やタクシーなども巻き込んだ価格戦略を考えるうえでも、今回の独禁法適用除外の意味は大きいと吉田准教授は話します。
さらに5月27日(水)には、「地域公共交通活性化再生法」などの改正案も国会で可決・成立しました。これは、簡単にいうと、バス路線の再編など地域の交通計画に、まちづくりも連携させ、自治体がより強く関与することを促すものです。
国土交通省 地域交通課の原田修吾さんによると、今回の改正では、自家用有償旅客運送(後述)や福祉輸送サービス、スクールバス、病院の送迎バスなども、公共交通を補完するものとして位置付けているといい、「輸送資源の総動員による移動手段の確保」を目的としているとのこと。
このうち「自家用有償旅客運送」は、バスやタクシーなどが運行されていない過疎地域などにおいて、登録を受けた市町村やNPOなどが、自家用車を用いて有償で旅客を運送するというものです。
オンラインフォーラムの司会を務めた名古屋大学の加藤博和教授は、「法律は『道具』。地域に必要な交通のあり方を考えるうえで、新しくなる法律をぜひ活用してほしい」と話しました。