羽田空港国際線の発着枠増加にともない、東京都心を低空で飛ぶ新ルートが運用開始されたものの、いまだ議論が続いている状態です。実際にそのルートを使う便に乗ったところ、景色はもちろん、そのほかで感覚的な違いがありました。
2020年3月、羽田空港における国際線発着枠の大幅増加にともなって、効率的な空港運用のため、東京都心を低い高度で通る飛行経路、いわゆる「羽田新ルート」の運用が本格的に開始されました。
ただこのルートをめぐっては、都心上空を通ることの騒音問題はもちろん、一部メディアでは、着陸時の「降下角度」が一般的な3度より急な3.5度になることを懸念する声も見られます。では、機内から見た新ルートは、どのような感じなのでしょうか。
羽田空港のJALとANAの飛行機(2020年3月、乗りものニュース編集部撮影)。
6月15日の福岡発羽田行きJL320便など、新ルートを使って着陸するフライトに数回、乗ることができました。この便を例にあげると、降下しながら千葉県の房総半島南端部まで来た飛行機は、半島のほぼ中央を縦断するように南から北へ飛行したのち、千葉市付近の上空で徐々に方向を変え、埼玉県方面に向かいます。
そして埼玉県川口市上空で東京方面に約90度旋回し、東京都練馬区の小竹向原駅上空を通り、新宿、表参道、品川駅、そして首都高大井ジャンクション上空と、降下しながら進み、羽田空港へ着陸します。
航空機追跡サイト「フライトレーダー24」によると、それぞれの高度は川口市上空で約5000フィート(約1500m)、新宿区上空で約3750フィート(約1143m)、品川駅上空で約2000フィート(約610m)、大井ジャンクション上空で約1400フィート(約430m)、とのことです。
着陸寸前の機窓からは、東京都心の各所を手に取るように見ることができます。左側の窓からは東京ドーム、秋葉原、スカイツリー、右側からは新宿、渋谷といったように、「大都会」の光景を見ながらの着陸は、これまでの羽田空港行きの便では経験したことのないものでした。
ウワサの降下角度は? ほかにも違いを体感そして一部で議論を起こしている「通常より大きな降下角度」は、JL320便の客室から大きな違いを感じることはありませんでした。ただ別の日のANA便のフライトでは、関連性は不明ではあるものの、減速に使われる主翼の板「スポイラー」が展開し、速度を落とす回数がこれまでより多く感じることもありました。
ただ羽田新ルート、先述のとおりこれまでの飛行ルートと比べると景色は新鮮ではあるものの、沖縄や福岡方面からの便だと、少々「じれったい」と感じることもあるでしょう。

6月15日のJL320便のフライトで機内から見えた東京ドーム(2020年6月、乗りものニュース編集部撮影)。
新ルートは、おもに夏などに吹く南風のときに取られるものです。これまでの南風運用時のルートは、福岡や沖縄など西南方向から羽田空港に降りる場合、千葉市や木更津市上空から羽田空港方面に機首をむけ、そのまま東京湾を渡ってD滑走路、もしくはB滑走路に着陸することが一般的でした。対して新ルートは、千葉市上空あたりから、いったん埼玉側に回りこむような形をとったのち、東京上空からC滑走路、もしくはA滑走路に着陸します。
そのため、乗り慣れた人であれば特に、機内モニターや外の景色で千葉市上空に差し掛かると「そろそろ着くな」と思うものですが、この感覚でいると、時間の面でギャップを感じるかもしれません。
「フライトレーダー24」によると、先述のJL320便が従来ルートで着陸した2019年8月4日の場合、千葉市上空から旋回しおよそ5分程度で着陸しているのに対し、新ルートでの着陸となった2020年6月15日は、千葉市上空からおよそ13分程度と、この地点から着陸までの時間は余分にかかっています。
ちなみに、同サイトに掲載されているフライト時間を比較すると、2019年8月4日が1時間25分、2020年6月15日が1時間19分となっており、トータルで長くなっているわけではありません。またそれ以外のフライトでも、飛行時間自体に大幅な増減は見られません。
前出の通り羽田新ルートをめぐっては、本運用開始後も議論が続いており、6月16日(火)には、国土交通省が「新ルート固定化回避のための検討会」の開催を発表するなどしています。