ANAでは毎年、就航する空港の品質を評価し表彰する制度があります。国内線部門の「最優秀空港」となった石見空港は、スタッフも若手多数で、前回のランキングでは最下位でした。
ANA(全日空)では、「最優秀空港」を表彰する「クオリティアワード」という制度があります。同社が就航している国内、海外の空港を対象に「安全性」「定時性」「快適利便性」の3つの部門で競い合い、さらに総合評価が高かったところを最優秀空港に選ぶものです。2020年で14回目を迎えます。
今回、国内部門の最優秀空港に選ばれたのは、島根県の石見空港(萩・石見空港)です。同空港のウェブサイトによると7月9日現在、一日あたりANAの羽田行きが2往復しています。加えて同空港で働く地上スタッフは、12人のうち8人が1年半以内の業務経験とフレッシュな顔ぶれが集まっているそう。にもかかかわらず最優秀空港に選ばれたワケは、どこにあるのでしょうか。
石見空港に駐機するANA機(画像:ANA)。
ANAによると、石見空港は同社就航の国内空港の中で屈指の「安全性」「定時性」をもつほか、空港のモチベーションと品質全体が底上げされているといいます。
たとえば同空港では「定時性」アップの取り組みとして、新入社員の増加で車いす客の搭乗降機に時間が掛かるという点に着眼。スムーズな案内に必要な準備や利用者の快適性をアップさせる案内のコツなどを全員で検証したうえ、新入社員のトレーニングを実施しています。
また年を追うごとに時間を要するようになる保安検査については、検査場トレーの回転率や靴の脱着に着目。スタッフ間での議論はもちろん、保安検査会社とも調整し、役割分担の見直しや備品の整備などを即座に実行したとのことです。
ANAによると石見空港は、こういった“全社一丸”となった取り組みに強みがあるとしています。
石見空港は4年振り2度目の「最優秀賞」の受賞ですが、同空港を運営する石見エアサービスの担当者にその経緯を聞いたところ、「私たちは挫折と絶望を味わってきました」とその内情を吐露します。
国内線「ナンバーワン」石見空港 「挫折」の経緯前回の「最優秀賞」受賞後の石見空港は一時期、空港品質が一気に落ち、2019年には対象国内空港の中でランキング最下位という結果になったそうです。その理由を石見エアサービスの担当者は次のように話します。
「頼りにしていたベテラン職員の退職が相次いだことで年々順位は後退し、一時は自力で業務をこなすことすら出来なくなりました。旅客部門では新入社員が8割を占め品質は落ち、あらゆることで歯車が噛み合わず最下位という挫折を味わいました。また、ベテランの退職は新入社員への育成にも影響があり、教育や訓練やノウハウの伝承が思うように進まず、大きな悩みとなっていたのです」(石見エアサービスの担当者)

石見エアサービスのメンバー(画像:ANA)。
石見エアサービスでは、今までの業務のやり方を見直し、訓練体制、情報共有、各会議体など役職者を中心に大幅に刷新します。また、空港への教育サポートや施策提言などを行うスキルを持つインストラクターから、利用者アンケートで得られた石見空港の強化ポイントなどのアドバイスを得て、それをスタッフ育成に効果的に反映しました。
このほか人員上の理由から、羽田空港など大規模な空港での旅客ハンドリング支援者の応援を受ける機会を得たことで、大規模空港ならではの豊富な対応事例やイレギュラー経験などを伝授されたとも。
石見エアサービスの担当者は、「今回再び最優秀賞をいただけたのは、困難な状況の中でも全員がひたむきに目の前の事に取り組んできた成果だと思います」と振り返ります。
なお、この「クオリティアワード」は2020年国内線部門では国内51空港が、国際線部門では国内外52空港がラインナップされています。ちなみに国際線部門では、中国の大連支店空港所が受賞しています。