京都市内の「路線バス均一運賃区間」が拡大しています。市街地まで530円かかっていた地域も、今後230円均一になることに驚きの声も。
京都駅までバスで530円かかっていた郊外の地域が、今後230円で行けるように。この大幅な値下げに驚きの声が上がっています。
京都市北西部の山中に位置し、紅葉の名所である神護寺や、多数の文化財を有する高山寺などがある高雄地域。西日本ジェイアールバス(通称JRバス)が京都駅から高雄、栂ノ尾(とがのお)を経て、旧京北町の周山までを結ぶ「高雄・京北線」を、京都市交通局が四条烏丸(地下鉄四条駅)から高雄までの市バス8号系統をそれぞれ運行していますが、2021年3月をめどに、両者のバスで次のような施策が実施される予定です。
・市バスの高雄から栂ノ尾への延伸:市バス8号系統の全便を高雄から栂ノ尾まで延伸。
・運賃の均一化:高雄地域(栂ノ尾)から京都駅、四条烏丸駅までの運賃530円を、市バス、JRバス双方で230円に。
・「バス1日券」などの適用範囲拡大とJRバスとの共通利用化:均一運賃区間(1回乗車230円)を適用範囲とする京都市「バス1日券」などの適用範囲を栂ノ尾まで拡大。JRバスも乗車可能に(栂ノ尾から京都駅までの全区間対象)。
京都市営バス5号系統岩倉行き。2016年に全区間が230円の均一運賃区間となった(画像:Phuong Nguyen Duy/123RF)。
このことが2020年8月12日(水)に発表されると、インターネット上では「均一運賃区間が栂ノ尾まで広がるとは思わなかった」などと、驚きの声が上がりました。
すでに京都市は、2014(平成26)年に嵯峨・嵐山地域、2016年には岩倉・修学院地域と、均一運賃区間を相次いで拡大しています。どちらの地域も市バスと民間の京都バスが運行されており、今回のように民間事業者を巻き込む形で運賃体系の見直しが行われているのです。
「来たバスに乗れる」 京都市の思い京都市交通局の営業推進室は、均一運賃区間を拡大するメリットを次のように話します。
「たとえば岩倉地域などは、もともと京都バスさんがバスを運行し、市バスが後発で入ったため、京都バスさんの運賃形態に合わせる形で(距離制運賃の)調整区間としていました。これが均一運賃区間になることで、たとえばバス1日乗車券も双方のバスで使え、かつIC定期券も共通になります。便数は両者で変わらず、お客様にとっては『来たバスに乗れる』ことになるのです」
今回の高雄地域(栂ノ尾)までの均一運賃区間の拡大についても、もともと住民から要望があったそう。市バスは高雄止まりで、JRバスはそこから2停留所先の栂ノ尾止まりの便が多いのですが、このあいだにはアップダウンがあり、かつ歩道もない幹線道路を通ります。市バスの敬老乗車券を持つお年寄りが、栂ノ尾付近から高雄まで歩いて市バスに乗ることもあり「危ない」という声もあることから、市バスも栂ノ尾まで延伸し、JRバスと市バスのどちらでも乗れるようにするのだそうです。

栂ノ尾のバス折り返し所に停まる西日本ジェイアールバスの車両(2019年9月、乗りものニュース編集部撮影)。
ただ、民間のバス事業者にとっては値下げになるため、「なかなか踏み切ってもらえなかった」とも。
京都市バスの運行エリアにおける「調整区間」はほかに、市南部の横大路周辺や、洛西地域に残っていますが、市としては将来的に、これらも全て均一運賃区間にしたい考えだそうです。京阪バスや阪急バスなど、乗り入れる複数の事業者との調整を進めるといいます。
利用者にとって、均一運賃区間の拡大は確かに嬉しい話かもしれませんが、これによる別の問題も考えられます。それは、バスの混雑問題です。
便利すぎる「バス1日券」 適用範囲拡大で混雑助長?2020年現在は新型コロナの影響で観光客は減少していますが、近年、京都では外国人観光客の急激な増加で、おもに市バスが混雑し「住民が乗れない」という問題が取り沙汰されていました。
その原因のひとつに、均一区間が乗り放題のバス1日券が安くて便利すぎる、ということが挙げられています。このため地下鉄への誘導を図るべく、2018年にはバス1日券を500円から600円に値上げし、バスと地下鉄の双方を利用できる「京都観光1日券」は逆に1200円から900円に値下げしたほどですが、京都の地下鉄は南北(烏丸線)と東西(東西線)方向の2路線しかありません。

バス1日券が使える均一運賃区間。2021年3月には福王子から栂ノ尾まで拡大し、西日本ジェイアールバスでも使えるようになる(画像:京都市交通局)。
地下鉄を使ったとしても、市内に点在する観光地へアプローチするにはバスへの乗り継ぎが必須なケースがほとんど。であれば、バス1日券を買って京都駅などから直接バスで、ということになるわけですが、その範囲の拡大が混雑を助長することにはならないと京都市交通局は話します。
「市バスの混雑ポイントは、金閣寺といった有名な場所に偏っている傾向があります。これまで、高雄まで行くには結構なお金がかかったわけですが、均一運賃あるいはバス1日券で行けるようになることで、同地域へ目を向けてもらえるでしょう」(京都市交通局 営業推進室)
つまり、行きづらかったスポットのバスの利便性を高めることで、いわば「観光スポットの分散」になるのだといいます。
なお、栂ノ尾までの均一運賃区間の拡大に伴い、JRバスのみが運行する栂ノ尾以北(周山まで)は、均一区間と運賃に大きな差が生じることから、これを緩和する運賃の見直しも検討するとされています。