2月最初の週末、「営業を停止したらしい」との一報が東京商工リサーチ(TSR)に入った。情報部員は現場へ急行した。


 だが、医療脱毛「トイトイトイクリニック」を都内で3店舗展開する医療法人社団雪焔会(TSR企業コード:033033170、東京都)のドアは閉ざされていた。
 設立から7年。自社ホームページでインフルエンサーを募集するなど、若者をターゲットにしていた。2024年2月期の売上高は約12億8,000万円だが、同年12月にノンバンクが債権譲渡を設定するなど、看過できない点も見え隠れしていた。

店舗入口に憤りの声

 週明けの2月3日(月)、TSRは再び雪焔会を訪ねた。入居するフロアのドアは施錠され、ドアには弁護士名の告示書が貼られていた。


 当法人は事業を停止しました。近日中に東京地方裁判所に破産手続き開始決定の申立てをする予定です。


 突然の事業停止だったのか、入口には商品案内やコロナ対策のお知らせがまだ掲示されていた。入口横には「ご意見箱」と書かれた箱があった。その近くに、会員(契約者)と思われる複数の人物が書きなぐった「ご意見書」が乱雑に散らばっていた。
 「50万も払ったのに金返せ」、「泥棒」など、怒り心頭に達した言葉が残されていた。突然の事業停止に戸惑う債権者(会員)の様子が頭に浮かぶ。

一方で、「かんごしさんに罪はない」(原文ママ)との記述もあった。会員が前払いしたサービスの対価を得るのは絶望的とみられる。また、働いていた従業員も職を失うことになる。こうした想いが錯綜する現場だ。
 TSRの取材に雪焔会の事情を知る人物が重い口を開いた。「(雪焔会の)理事長から経営について相談を受けたことがある。新規顧客の獲得に力を入れすぎて運転資金が不足していたのではないか。一般債権者は多数にのぼるだろう」。



相次ぐ脱毛サロンの倒産と道半ばの消費者保護 ~ 「トイトイト...の画像はこちら >>

トイトイトイクリニックへの「ご意見」

 

 雪焔会のホームページは、2月3日時点で「現在業務を停止しております。ご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ございません」と掲載されている。ただ、今後の対応などについて明記はない。顧客を置き去りにした対応に対し、SNSでは怒りや困惑している人も散見され、混乱が広がっている。



道半ばの消費者保護

 2024年の脱毛サロン(医療脱毛含む)の倒産は16件(前年12件)で、2年連続で最多を更新した。12月には「アリシアクリニック」の運営会社が破産し、大きなニュースになったばかりだ。脱毛サロンは多額の広告費をかけ、前受金を集めて事業を拡大するケースが多い。売上の季節変動が大きく、信用力の問題から銀行借入が難しい業態ともいわれる。その中で、安い価格を打ち出すクリニックも増えて競争が激しさを増しており、前受金ビジネスの課題が噴出している。
 大手信販会社で長年に渡り法務に携わった吉元利行氏(現代ビジネス法研究所代表)によると、「脱毛サロンのような1カ月を超えて、5万円を超える費用を支払う継続的なサービスは、特定継続的役務提供として特定商取引法(特商法)の規制対象」だという。その上で、「これまでの特商法の改正で、クーリングオフや中途解約の制度が設けられ、前受金の保全措置の有無の明示が必要になったものの、保全措置自体は義務化されていない」と問題点を指摘する。
 このため、「例えば未提供役務残高のうち、50%の保全を義務付けるなど、消費者保護に向けた規制強化も一案」(吉元氏)と提言する。
 脱毛サロンの倒産は、会員が前払いした施術代の返金が困難なケースが大半だ。消費者保護の枠組み作りは道半ばで、腰を据えた議論が必要な時期に差し掛かっている。

相次ぐ脱毛サロンの倒産と道半ばの消費者保護 ~ 「トイトイトイクリニック」受付に憤りの声 ~
脱毛サロンの倒産 件数推移


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年2月6日号掲載「取材の周辺」を再編集)

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