サカナ釣りをしたことがある人ならほとんどの人が一度は出会ったことがあるであろう【ベラ】。敬遠されがちのベラについて調べてみました。
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ベラというサカナ
ベラと聞いてどのような見た目をしているかは知っていても、生態を詳しく知っている人はそこまで多くないのではないでしょうか。
ベラは細長い見た目をしていて、赤や青で美しい体色をした海水魚です。日本の各地に生息しており、サカナ釣りでは堤防や砂浜など様々な場所で釣れます。
しかし、狙ったサカナではないのに釣れてしまう定番のゲストであり、「エサ取り」の代表格であるため、ほとんどの釣り人から嫌われがちです。
そんな私たちがよく【ベラ】と呼んでいるサカナは実は本当の名前を持っています。ベラと呼ばれているサカナの和名(日本での名前)は【キュウセン】と言います。
キュウセンはスズキ目・ベラ亜目・ベラ科・カンムリベラ亜科・キュウセン属に分類されます。
しかし、ベラ科のサカナは種類が豊富で、釣れたサカナがキュウセンか、それとも別の種類のベラなのか細かく考える人はあまりおらず、ベラ科のサカナを総称して【ベラ】と呼ぶことが多いようです。
日本の各地では「ベラ」と呼ばれているサカナは数種類いますが、今回の記事ではこのキュウセンというサカナにフォーカスを当てていきましょう。

キュウセンは性別で体色が違う
『ベラの色ってどんな色ですか?』
そう聞かれて思い浮かぶ色はおそらく2つの意見に分かれると思います。1つは青や緑の鮮やかな色、もう1つは赤やオレンジで少しだけ地味な色でしょう。
釣りをしていてベラが釣れた時「青い色の種類のベラが釣れた」「赤い色の種類のベラが釣れた」と色によって別種のベラだと勘違いしている人もいるかもしれません。
しかし、実はこの2種類は共にキュウセンなのです。
中には「キュウセンは地域によって色が変わる」と思っている人もいるかもしれませんが、これもまた不正解。

メスがオスに性転換?
ベラの色がオスとメスで変わると言いましたが、実は生まれたばかりのベラはすべて同じ見た目、色をしています。
生まれたばかりのベラの性別はほとんどすべてがメスであり、色も薄いピンク色~オレンジ色をしています。
キュウセンを含むベラ科のサカナの多くは同じようにほとんどがメスで生まれ、成長する中で、一部のメスがオスに性転換します。
これを【雌性先熟】と言い、群れの中で一番大きなものがメスからオスに性転換し、群れを作って繁殖を行います。
中には生まれた時からオス(一次オス)のものもいるのですが、このオスはメス社会では立場が低く、縄張りを持つことが出来ません。一方、性転換したオス(二次オス)は群れを作り縄張りやハーレムを持ち、群れの中ではボスのような存在になります。しかし、一次オスは成長してもボスになることはほとんどなく、産卵の時も他のオスの産卵にこっそり割り込んだりして繁殖を行います。

釣り人から嫌われる理由
ベラがほとんどの釣り人から嫌われているのにはもちろん理由があります。
ベラが釣り場で登場する場面はほとんどが共通しており、本命のサカナを狙っている時に限ってベラがたくさん釣れてしまいます。
釣り人はこういったサカナを俗に「エサ取り」と呼び、厄介者として扱います。
ベラがエサ取りのプロなのにはもちろん理由があり、そこにはベラの食性と口の形や大きさが深くかかわっています。
ベラの食性は基本的には肉食です。水中に住む小さなエビやゴカイ、プランクトンなどを好んで食べています。
そのため、釣り人が気付かないうちに水中ではどんどんエサがなくなっていき、気づいたときには時すでに遅し、きれいにハリだけが残ってしまうのです。
また、食欲も非常に旺盛であり、一度食欲に火が付くと、お腹がパンパンになるまでエサを食べようとします。しかもベラは群れで行動するため、釣り場にベラがいると無限にエサが取られてしまうのです。
釣り人がベラを嫌う理由にも納得できるでしょう。

寝るときは地面の中
嫌われ者のベラですが、少しかわいい習性も持っています。
彼らは昼行性なので、夜は私たち人間と同じように眠りにつきます。しかも眠るときは、岩陰でこっそり眠るのではなく、砂の中に潜って眠るのです。
これは身を守るためだと考えられており、砂に潜ることで一種のカモフラージュの役目になっているのだと考えられています。
朝になり陽の光を感じると砂の中から泳ぎだすのですが、水族館にいるベラの中には朝になっても出てこず一日中寝ていることもあるようです。
地方によっては高級魚
ベラは日本のほとんどのすべての海に生息しています。
そしてほとんどがエサ取りとして厄介者のレッテルを張られていますが、一部の地域でキュウセンは高級魚として流通している地域もあります。
その地域は主に瀬戸内海に面した地域で、上品でクセのない白身魚として刺身はもちろん煮付けなど様々な食べ方で愛されています。
東日本の人からすると驚きかもしれませんが、スーパーの鮮魚コーナーでも購入することができ、大衆魚として扱われているのです。
敬遠せずに食べてみて
エサ取りで誰も持ち帰らないイメージのあるサカナのため、味も悪いと思っている方もいるかもしれませんが、ベラは決してまずいサカナではありません。
ベラは雑食なため、生息している場所の水質や食べているものの傾向によっては、もしかしたら身に磯臭さを感じることもあるかもしれませんが、それも趣の一つ。
もし大型のベラが釣れた際は一度食べてみて下さい。その美味しさに驚くこと間違いなしだと思います。

<近藤 俊/サカナ研究所>