水田などに生息する小さな昆虫・マルガムシ。ごくありふれた、見た目も特段変わったところのない虫ですが、実はすごい能力を持っているということが判明しました。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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水族館で「不思議な虫」が展示

岐阜県にある、世界最大級の淡水魚専門水族館「アクア・トト ぎふ」。いまここで、魚ではなくとある「虫」の展示が話題を呼んでいます。

その虫とは、水生昆虫の一種「マメガムシ」。腹部に牙を思わせる突起状の部位があることから「牙虫」と呼ばれるグループの甲虫の一種です。

天敵に飲み込まれても生きている「ちょっと変わった」生物たち 
水田を泳ぐマメガムシ(提供:茸本朗)

体長は3.5~4mmほどしかないですが、とくに成虫は泳ぎが上手く、飛ぶことも可能です。浅い湿地や田んぼなどの身近な水辺でごく普通に見ることができる一般種です。

しかしそんなマメガムシですが、2020 年に発表された研究成果により突然注目を集める存在となりました。

なんと彼らには「敵に飲み込まれても死なない」という特殊能力があったのです。

敵に飲み込まれても生きている!

神戸大学大学院の研究により、マメガムシは天敵であるカエルに捕食されても、消化管を生きて通過することができるということがわかりました。実験ではマメガムシをしばしば捕食するトノサマガエルに、成虫15匹を飲み込ませたのですが、うち14個体、実に90%以上の個体がカエルのお尻の穴(総排出腔)から生きて脱出したそうです。

別のガムシ科の一種で同様の実験を行ったところ、捕食された13個体は全てが死んで排出されたというため、ガムシ類に共通する能力というわけではないようです。

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マメガムシを捕食するヌマガエル(提供:茸本朗)

また、トノサマガエルは他の餌を飲み込んでから排出するまで平均50時間かかるそうですが、マメガムシが生きて排出される場合は、その時間は平均1.6時間ほどしかかからなかったそうです。このことから、マメガムシはカエルの消化管を生きて通過するために、内部から刺激して排便を促している可能性があるそう。ど根性ガエルもびっくりのすごい根性です。

更にマメガムシは、前翅や他の部位が硬く、これをしっかりと体に密着させて水が体内に入らないような仕組みがあります。これによってカエルの消化液からうまく身を護っている説もあります。加えて普段から水中生活をしている彼らは、硬い翅の下に呼吸のための空気を取り込めるため、カエルの消化管内で窒息することなくいられるのかもしれません。(『カエルに食べられても“お尻から生きて脱出できる”昆虫を発見…なぜ消化されないのか聞いた』FNNプライムオンライン 2020.8.5)

消化管の中で生き延びる生き物

さて、このマメガムシほど驚愕的ではありませんが、同様に「消化管内で生き延びられる」生き物たちはほかにも存在しています。

例えば、非常に小型のカタツムリの一種「ノミガイ」は、鳥に捕食されてもその15%ほどが生きたまま糞から排泄されるといいます。移動能力が低いノミガイですが広い範囲に分布が確認されており、この能力によって生息域を広げているという説があります。

また、口から入るわけではないですが、魚にも同様に「消化管内で生きていられる」カクレウオという魚がいます。彼らはナマコの消化管内に入り込む性質があり、ナマコを陸に上げると慌てて肛門から飛び出してくることがあります。

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ナマコの肛門(提供:PhotoAC)

彼らは自分から消化管内に入り込んでおり、隠れ家として利用していると考えられています。この行動に関して、ナマコサイドには特に利益がないと見られており、動物同士の関わり合いで片方にしか利益がない「片利共生」の代表例としてしばしば紹介されます。

先日見た映画「メン・イン・ブラック」では、主人公の一人が敵の宇宙人の体内に入り込み、生還するというシーンが有りましたが、動物たちにはこれを現実のものとしてしまうものがいるのですね。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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