ここ数年で最も注目される環境問題となっているマイクロプラスチック。一方で、産業界にはすでに「生分解性プラスチック」という自然環境下で分解されるプラスチックが存在しているのですが、思ったほどには普及していないというのが現状です。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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プラスチック汚染が深刻化

現在、環境中に放出されたプラスチックごみを誤って摂取してしまう野生生物が増えており、問題になっています。先日、ブラジルなどの研究チームによって、このような野生動物が世界で少なくとも約1500種に上る、とする研究結果が発表されました。

とくに汚染が目立つのは、プラスチックごみによる汚染が集中する「海」の生き物たちです。しかし今やそれだけでなく、河川などの淡水域や陸域の多くの種でも、生物へのプラスチック汚染が確認される深刻な状況となっています。

海洋生物たちの脅威「プラスチック汚染」 鍵を握る『生分解性』とは?
打ち捨てられたプラスチックごみ(提供:PhotoAC)

研究によると、1980年から今年5月までの間に報告された摂取例を集約した結果、魚類は932種、鳥類は291種で汚染が確認。哺乳類でも94種。計1565種でプラスチックごみの摂取例が判明したといいます。

研究チームは「毎年数百万tのプラスチックが環境中に蓄積している」と指摘しており、「生産と使用を減らし、廃棄物管理と回収への投資が必要だ」と訴えたそうです。(『プラごみ、野生生物の摂取深刻 世界1500種で確認』共同通信 2021.7.2)

『生分解性プラスチック』

プラスチックという素材には「分解されにくく安定性が高い」という特徴があり、これが現在広く使用されている理由でもあります。しかしそのために、一度自然環境下に放出されるといつまでも分解されずに残ってしまい、環境に悪影響を及ぼします。

そのため、このようなプラスチックの環境への負荷を軽減する『生分解性プラスチック』の開発が、世界各国で進められてきました。生分解性とは「微生物によって完全に消費され、二酸化炭素やメタン、水、バイオマスなどの自然的副産物のみを生じる」ものと定義されています。

海洋生物たちの脅威「プラスチック汚染」 鍵を握る『生分解性』とは?
生分解性プラスチック製フォーク(提供:PhotoAC)

現在「生分解性プラスチック」というと多くの場合、デンプンや糖など生物資源(いわゆるバイオマス)を原料としたバイオマスプラスチックを指すことが多いようです。日本バイオプラスチック協会は「3カ月で6割以上が分解」されるものを生分解性プラスチックと規定しています。

生分解性プラスチックは自然環境下で分解されるため、従来のプラスチックに比べ、自然環境への負担が遥かに少なくなります。

欧米で開発が先行

この生分解性プラスチックの利用は、欧米において先行していると言われています。1980年代末以降、欧州ではシャンプーボトルや食品包装、簡易食器具、キャラクター商品、コンポスト用袋などの分野において、生分解性プラスチックの製品が実用化されています。

またEUでは、生分解性プラスチックの袋を除く「使い捨てレジ袋」使用の削減を義務付けており、結果として生分解性プラスチックへの置き換えが進んでいます。

海洋ではまだまだ要研究

しかし、生分解性プラスチックでも、環境負荷への対策が完璧というわけではありません。たとえば、生分解性プラスチックの中でも、海洋で生分解されることが可能なプラスチックは現状限られているそうで「海洋生分解性プラスチック」の開発が現在進められています。

海洋生物たちの脅威「プラスチック汚染」 鍵を握る『生分解性』とは?
様々なプラスチック製品(提供:PhotoAC)

製造コストの問題も

また他にも、生分解性プラスチックには従来のプラスチックに比べて「素材自体や加工にかかる費用が高価」という大きな弱点があります。成形性、性能について従来のプラスチックを凌駕すると評価されるものが少ないなどの課題があり、これらがクリアされない限り、置き換えのスピードは上がっていかないと思われます。

生物たちの酷い現状を見るにつけ、一刻も早く「より利便性の高い」生分解性プラスチックが開発されることを祈らずにはいられません。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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