海の中で触手を広げる不思議な生物イソギンチャク。実は食材としてもなかなか無視しがたい存在です。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
謎食材「若い衆の尻の穴」
長い海岸線を誇る我が国には、様々な海の幸が存在します。そしてその中には、ごく限られた地域でのみ食用にされているものもあります。
そのひとつが「ワケノシンノス」。若い衆の尻の穴、というあまり文字に起こしたくない意味の言葉で呼ばれているこの食材は、いわゆる「イソギンチャク」の一種です。

福岡県や佐賀県の有明海湾奥沿岸部でのみ食用にされてきたこのワケノシンノスは、砂浜や干潟に生息する「イシワケイソギンチャク」という種類のイソギンチャクです。砂浜に埋もれた貝殻や小石などに付着しているため「わけやぬき」という特殊な道具を使い掘り出して漁獲されています。
実は各地で食べられている
さてこのイソギンチャク、有明海沿岸のそれほど有名ではありませんが、実は他の地域でも食用にされています。
例えば南西諸島の一部の島では「ヤドカリイソギンチャク」という種類のイソギンチャクが食用にされます。これは名前の通り大型のヤドカリと共生しており、見つければ一度に2つの食材をゲットすることができるお得な存在です。現地ではヤドカリと一緒にみそ汁の具にされています。

また海外に目を向けると、スペインでもイソギンチャクは食用にされています。現地ではortiguillas(小さいクラゲの意味)と呼ばれており、フリッターなどで食べられているそうです。
カレーにもぴったり
さて筆者は先日、砂利の混ざる浜に生息しているちょっと変わったイソギンチャクを見つけました。調べてみるとクロガネイソギンチャクという種類で、イシワケイソギンチャクのように砂浜に触手を開くこともあるそうです。
クロガネイソギンチャクは食用にされることは殆ど無いようなのですが、イシワケイソギンチャクによく似ていて美味しそうだったので、試しに食べてみることにしました。

捕獲したイソギンチャクはさっと湯通ししてからぬめりを洗い落とし、シーフードカレーの具にしてみました。食べてみると外側はパリッとした質感ですが内部はとろっとしており、二枚貝の内臓やホヤのような風味で悪くありません。トマトを効かせたシーフードカレーの具としてはなかなか上々で、今後も捕まえて食べたいという味でした。
加熱処理で毒対策
ちなみに、イソギンチャクの多くは刺胞毒という毒を持っていますが、これは加熱により不活化するため食用にしても問題ありません。しかしスナギンチャクなど一部の大型イソギンチャクはテトロドトキシンなどの蓄積性海洋毒を体内に保持しており、これは加熱しても消えないため食用にすることはできません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>