愛らしくて美味しい小さなタコ・イイダコ。実はいま、資源が危機状態にあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
イイダコ水揚げが100分の1に
日本で最も小さな食用タコであるイイダコ。頭のサイズがピンポン玉ほどしかない可愛いタコですが、柔らかくて濃厚な味わい、そして「飯(いい)」と呼ばれる卵巣の歯応えが人気です。

内湾の浅い砂地に多く、とくに瀬戸内海は日本屈指の水揚げを誇る漁場でした。しかし今、そんな瀬戸内海のイイダコ資源がピンチを迎えています。
瀬戸内海東部、イイダコの好漁場であった香川県沖での水揚げが、2002年からの20年間でなんと100分の1となってしまったことが判明したのです。2023年には釣り人に対し、9月~10月頭にのみ設定された釣期以外のイイダコ釣りを自粛するように呼びかけましたが、現在に至るまで回復の兆しは見えていないようです。
原因はハモ?
ここまでイイダコが減少してしまった理由として、地元では「天敵の増加」という説が言われています。
瀬戸内海の水温は、日本近海における水温上昇と連動して上昇の一途にあります。それにより、イイダコを好んで捕食するハモが増えてしまい、捕食圧によって減ってしまったというのです。

しかしこの説だけではとても100分の1にまで減少した理由にはなり得ません。我が国で減少している多くの水産資源同様、やはり漁業による乱獲の影響が大きいと見るのが自然でしょう。
また瀬戸内海は日本で最も沿岸部の環境破壊が激しい水域であり、イイダコの棲息に不可欠な浅い砂場がものすごい勢いで減少していることも資源減の理由と見られています。
そういったものに目を向けず、すぐに「海洋温暖化だ」「環境変化のせいだ」と言い出すのは日本の水産行政における幼稚さ、愚かさであると言わざるを得ません。
養殖技術は救世主となるか
そんなイイダコですが、先日このピンチを救うかもしれない新たな技術が開発されました。

香川県水産試験場は昨年、抱卵イイダコを捕獲しその卵を孵化、再び産卵ができるサイズにまで成長させることに成功しました。稚イイダコを共食いさせないようサイズごとに分けて育てること、成長途中にイシガニを食べさせることなどが成功の理由だといいます。
県は今年、完全養殖によって得られた稚イイダコを放流しました。来年以降資源の回復が見られるのか、関係者の注目が集まっています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>