海洋を当てどなく漂うクラゲ。柔らかく実体のなさそうな見た目をしていますが、ときに我々の暮らしを脅かすことがあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
クラゲが原発に詰まった?
ヨーロッパで最大の原子力発電量を誇るフランス。この国で先日、とある生物が原発の運転を止めるという事故が発生しました。
その生物とはなんとクラゲ。フランス北部、ドーバー海峡に面したグラブリーヌ原発のポンプに、大量のクラゲが詰まってしまい、冷却水を吸い上げることができなくなってしまったために緊急停止したのだそうです。

原子力発電では発電後、タービンを回すために用いられた水蒸気を冷却し水に戻すための冷却水が大量に必要になります。グラブリーヌ原発のように海に面した原発ではその冷却水に海水を用いるのですが、それがクラゲのために吸い上げられなくなってしまったのです。
日本でも同様の事例が
実はクラゲによる原発の停止、運転調整は我が国でもしばしば発生しています。たとえば2011年には島根原発で、冷却水用の海水のゴミを取り除く部位にクラゲが入り込み、運転出力を低下させることを余儀なくされました。

翌年2021年にも、福井県の大飯原発で海水の取水口にクラゲが大量に押し寄せ、一時的に出力を低下させるという事案が発生しています。
このような事例を受け、一部の発電所では海水取水ポンプに調整翼をつけ、取水量を調整するなどの対策を行っているそうですが、大量のクラゲが押し寄せてしまえば発電出力を下げざるを得ないのが現状です。発電に大量の海水を必要とする原子力発電の泣き所とも言えるかもしれません。
なぜクラゲは大発生するのか
今回のグラブリーヌ原発での事案は、海洋温暖化が影響しているのではないかといわれています。当原発が面している北海は水温が低い海ですが、近年の世界的な温暖化を受けて水温が上昇し、環境が変化しています。
クラゲという生物は一般的に温暖なほど種類や生息量が多くなるのですが、北海が温暖化することでクラゲたちに適した海域になりつつあり、結果として今回のような大量発生がおこるというのです。

なお、原子力発電はその性質上、膨大な熱量を冷却水を通じて海に排出しており、スポット的な海洋温暖化をもたらしています。その影響は絶大で、一説によれば発電量100万kWにつき200万kWのエネルギーが海に排出され、それは70tの海水の水温を1秒あたり7℃も上昇させるものだといいます。
クラゲが増えて原発が動かせなくなってしまうのは、ある種自業自得的な側面があるとも言えるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>