出汁の決め手といえば「鰹節(かつおぶし)」。今は削られたものが売られているので、節そのものを見たことない人もいるのでは?今回は、自宅で簡単に鰹節を作る方法を調べてみました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
鰹節とは
魚から出汁をとる材料として一番有名なのが鰹節ではないでしょうか?
鰹節とは、鰹の身をボイルして、水分を26%以下まで何度も燻製にし、カチカチになるまで乾燥させた食べ物の総称です。ちなみに家庭で使われている小袋分けで販売されているものは、削り節と呼ばれます。鰹節は、削っていないカツオで作られ節を指します。
製造工程によってさらに詳しく名前が変わりますが、それは後ほど詳しく解説していきます。
ちなみに鰹節の「節」は鰹節の製造工程の「干す」をもじり「干し→節(ふし)」になった説と、製造工程の「燻す」をもじって「いぶし→ぶし→節」になった説があるようです。

鰹節の種類
鰹節というのは、実は意外とざっくりとした呼び名であり、生産工程や期間によって細かく名前が分かれています。
鰹節は大きく【荒節(あらぶし)】と【枯節(かれぶし)】に分けることができ、その両者を区別するポイントはカビが付いているか、付いていないかです。
カビ!?と驚く方もいると思いますが、体に害のあるものではないので、ご安心ください。
カビなしの黒っぽいものを『荒節』という名前で呼びます。この荒節にカビを付け、乾燥させたものを「枯節」と呼び、見た目は茶色っぽく少し粉っぽくなっているのが特徴です。
この「枯節」にさらにカビ付け・乾燥の工程を何度も繰り返し、より熟成させたものを「本枯節」と言います。
「本枯節」の製造には半年以上もの期間を要します。現在、流通している鰹節の9割ほどは実は【荒節】で、【枯節】は1割程度です。

世界で一番硬い食べ物
鰹節が硬いことは皆さんもご存じかと思いますが、実は世界で一番硬い食べ物ということは知っていましたか?
物の硬さを量る単位として、硬さを10段階で表した「モース硬度」というものがあります。身近でイメージの付きやすいもののモース硬度は、例えば金属の鉄はモース硬度:4、ガラスはモース硬度:5とされており、最も硬いモース硬度:10はダイヤモンドとなっています。
この名だたる堅物たちの中で、鰹節はなんと【モース硬度:7】。この数字だけ見ても、鰹節がどれだけ硬いかご理解いただけたかと思います。
硬さの理由
鰹節がここまで硬くなるのには、前述のカビが大きく関わっています。鰹節に付着したカビは、鰹節の内部まで菌糸を伸ばし、その菌糸を通って水分が蒸発していきます。
この作用により、内部の水分はどんどん蒸発していき、芯までしっかりと乾燥することで恐るべき硬さに変化していきます。
鰹節の作り方
ではいよいよ、自宅で鰹節を作る方法について解説していきます。今回つくる鰹節は、カビを用意するのが難しく、自然にカビを繁殖させるのも衛生的に心配なため、「荒節」の作り方について紹介します。
頑張れば1週間程度完成することができます。また用意するものも多くはないので、ぜひチャレンジしてみて下さい。
【用意するもの】
・マガツオ(刺し身用が望ましい):半身
・スモークチップ(サクラ、ナラ等):およそ100g程度
・蓋ができるフライパン:100円ショップに売っているような安価なものでOK
・丸型の金網:フライパン直径より2㎝くらい小さいもの

手順
1.下処理
スーパーで販売されているカツオの半身を成型していきます。
お腹の身の厚さが薄い部分は除去し、筒状、棒状になるように形を整えます。
2.煮蒸(しゃじく)
次に、カツオの身を鰹節に変えて行く工程に入ります。
まずカツオの身をじっくり茹でます。
これは茹でている最中に身が踊って荷崩れさせないためと、取り出す際に網ごと持ち上げて荷崩れさせないためです。身がしっかり沈むまで水を入れ、まずは強火で加熱、その後ぼこぼこと沸騰する前に火を中火に調整しましょう。
この煮蒸の目的は主に2つで、一つ目は殺菌、二つ目が身の脂の除去です。約1時間ほど煮たら、網ごと取り出し、すぐに冷水につけて冷やします。
3.骨抜き
刺身用の半身が用意できていれば、骨抜きの必要はないと思いますが、一匹丸ごと購入して作ろうとする場合は、骨抜きの処理が必要になります。
この後の焙乾(ばいかん)をすることで、カツオの身は水分が抜けてどんどん小さくなっていきますが、この時、骨が残っていると形が崩れてしまいます。
骨が残っている場合は毛抜きであらかじめ取っておく方が良いでしょう。
4.焙乾(ばいかん)
いよいよ身から水分を飛ばし、旨味を凝縮させる焙乾の工程に入ります。今回は、フライパンで燻製を作る作業と同じ方法を取ります。
まず、フライパンの底に焦げ付き防止のためのアルミホイルを敷き、その上にチップを置きます。
金網を置き、その上にカツオの身を置きます。
チップから煙が出るまでは、強火で加熱。その後、煙が出てきたら中~弱火にし、3時間くらい燻製しましょう。チップを一度に乗せられない場合は、数回に分けてチップを追加しても大丈夫です。しかし身の温度が下がらないようになるべく素早く行うようにしてください。
燻製が終わったら、キッチンペーパーに包み、その上にラップをして冷蔵庫へ。そうすることで、カツオの内部の水分が乾燥した表面に移動し、均等に水分を抜いていくことが出来ます。
5.焙乾を繰り返す×7日
焙乾の作業を7日間繰り返していきます。
本来だと2週間から3週間程度この作業を繰り返しますが、7日間でもかなりカチカチに硬くなります。
7日経つ頃には大きさは元の四分の一ぐらいまで小さくなり、味や風味を凝縮させることができます。
これより先は好みによって、どれくらいまで焙乾させるか変わってきます。より硬くしたい場合は、さらに日数をかけて焙乾していくといいでしょう。
これで荒節の完成です。
6.仕上げ
焙乾させると表面はタールで真っ黒になってしまいます。このタールの部分をナイフや包丁で削ると下からきれいな鰹節(裸節)が出てきます。
使うときは
やっと完成しても、鰹節削り器やカンナが無いと、せっかくの鰹節を食べることができません。
そんな時は、ピーラーやスライサーを代用すると、細かく削ることができます。非常に硬いので、勢い余って指を切ったり、ケガだけはしなように注意しましょう。

本枯節は4カ月もかかる
高級な本枯節は、今回の記事の工程で作った裸節をかび付け庫に運び、温度と湿度を管理することにより、十数種類のかつお節カビを節の表面に繁殖させます。
1回のカビ付けには約2週間かかり、温度や湿度が徹底管理された場所でカビを付け、それを天日干しし、乾燥させた後ブラシなどで丁寧にカビを取ります。
これを数回繰り返すことで、節はより熟成され、香りはますます良くなり、うまみ成分の含有量も増えていきます
最初はカビの色が緑色ですが、数回繰り替えすとその色はどんどん茶色に変わってきます。だんだんとカビが生えなくなってくるので、そこまで熟成させたらやっと本枯節の完成です。
ここまで来るのに最低でも約4週間の時間を要します。本枯節は生産者の技術と努力の結晶といっても過言ではありません。
保存方法
さて、今回作った荒節ですが、一度に使い切ることは難しいと思いますので、季節に応じた保存を心がけると風味や旨味が損なわれずに済みます。また、荒節(裸節)は、枯節に比べると乾燥度が低いため、常温で置いておくと青カビや虫が発生する可能性が非常に高くなるため注意が必要です。
必ず、密封できる袋に入れ、冷蔵庫で保管するようにして下さい。
余った魚は荒節に
例えば釣ってきた魚が余ったり、切り身が安く売っていたら、荒節を作ってみるのもいいかもしれません。
日本では、マガツオではなく、その他にもソウダガツオや、マグロ、ムロアジ、ゴマサバ、ウルメイワシなどでも「~節」を作っています。
釣ってもあまりおいしくないことで有名なソウダガツオを使った宗田(ソウダ)節は鰹節の中では非常に高級品とされています。
もし、調理する時間に余裕があったら、リリースするのではなく、是非一度自分好みの鰹節を作ってみてはいかがでしょうか?
<近藤 俊/サカナ研究所>