中国ではコロナウイルスの影響で、野生動物の食用ならびに取引が禁止されることになったという報道がありました。今回の規制はおもに陸上性動物へのもののようですが、取引が規制されている魚は存在するのでしょうか。

(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース編集部)

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中国で野生動物取引が禁止

現在世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルス(COVID-19)ですが、その発端となったのは発生地である中国・武漢の市場だと考えられています。

そこには多種多様の哺乳類・爬虫類などの野生動物が、おもに食用とするために売買されています。中国には昔から、野生動物を食材や薬として用いる「野味」という文化があり、このような市場にニーズが有るようです。

将来的にフカヒレは食べられなくなる? 中国の魚類捕獲規制について解説
感染源と疑われたハクビシン(出展:PhoteAC) 

中国では過去にも重症急性呼吸器症候群(SARS)などの「野味」が原因と見られるウイルス性症候群が発生しており、今回の新型コロナウイルス感染症の発生を受けて中国政府は「野生動物取引の即時全面禁止」を宣言しました。

実はもともと規制されていた?

しかし、今回取引を禁止された野生動物たちの多くは、もともと中国でも取引が規制されていました。1989年に野生動物保護法が制定、更に2016年には同法が改正され、希少な生物を用いた食品の販売が禁止されているのです。

そのほか2003年には、上記のSARSの流行がジャコウネコに起因するものとされたのを機に、これを含むいくつかの野生動物が取引を禁止され、殺処分されています。2013年には習近平国家主席が、公務接待で野生動物を用いた食品を振る舞うことを改めて禁止しています。今回の宣言は、これらの規制が有名無実となっている事態を踏まえ、よりしっかりと対策をするべく発せられたものと考えられています。

魚類由来の食材への規制

さて、中国ではこれらの陸上性野生動物だけではなく、魚類に関わる食材でも取引や規制されているものが存在します。

代表的なものに「魚肚(ぎょと)」があります。これは魚の浮き袋を干したもので、干し鮑や干しなまこ、フカヒレと並ぶ中華料理の超高級食材です。ニベ科の魚の浮き袋が用いられることが多く、日本ではかまぼこ原料として珍重されるシログチ(石持)や船釣りの人気上昇中ターゲット・クログチ(カマガリ)、ルアー釣りの好敵手であるオオニベも魚肚の原料のひとつです。

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東京湾で人気の釣り物・シログチ 

トトアバの「魚肚」

その一種にトトアバという魚がいます。これはメキシコ湾に棲息する大型のニベ科の魚で、「魚肚」の原料としては一級品。質の良いものだとひとつ数百万円もの値がつくことがあり、そのために乱獲の憂き目にあっています。

絶滅危惧動物に指定されており、中国や香港では漁獲や取引が禁止されているものの、その価値の高さからマフィアによる密漁が横行しており、「海のコカイン」という不名誉な呼び名もつけられてしまいました。

このほかチョウザメやナイルパーチといった魚の浮き袋も魚肚の材料にされることがあり、棲息地では漁獲圧による減少が危惧されています。

フカヒレにも規制の手が

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高級食材の代名詞・フカヒレも……(出展:photeAC)

我々日本人にとって耳馴染みのある「フカヒレ」も規制が進んでいます。上記の習国家主席の使用禁止宣言はおもにフカヒレを念頭に置いたものといわれており、世界で最もフカヒレを消費する国のトップの発言として注目を集めました。

規制は輸入国である中国だけでなく、主要な生産国であったアメリカでも積極的に導入され、2019年時点で、ハワイを始めとした12の州でフカヒレの採取を目的としたサメの漁獲が禁止されています。

アオザメなど高級フカヒレの材料となるサメ類は世界的な減少が懸念されており、またフカヒレ漁ではサメの本体は利用せず海中投棄されるため「残虐だ」と言われることも多く、これらが規制に拍車をかけているようです。

広大な禁漁区の設定も

その他中国では、2020年1月をもって、中国最大の河川である長江流域での淡水魚漁を禁止したと発表されています。

中国には「四大家魚」という4種のコイ科淡水魚をはじめ食用として人気のある淡水魚が存在し、長江はその一大生産地となっていました。しかし長年の乱獲や汚染が祟り、漁獲高が大きく落ち込んでしまっており、資源を回復させるために禁漁とすることになったのです。期間は現時点では10年と発表されています。

当然ながら多くの漁民が職を失ってしまうわけですが、政府は職業訓練や補償金の給付などで対応するとしています。

種の保存には効果的

中国におけるこのような野生動物取引規制は、強大な権力を持つ政府と立法機関によりトップダウンで行われています。日本では考えにくい強権的な処置であり、現時点でウイルス感染の拡大防止に貢献できるかは未知数ですが、種の保存の観点からは効果的でしょう。

マグロやウナギの乱獲をいつまでも止められないわれわれ日本人にとっては、少し耳の痛い話かもしれません。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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