『ウィキッド ふたりの魔女』(3月7日公開)
魔法と幻想の国・オズにあるシズ大学の学生として出会ったエルファバ(シンシア・エリヴォ)とグリンダ(アリアナ・グランデ)。緑色の肌であるが故に周囲から誤解されてしまうエルファバと、野心的で美しく人気者のグリンダは、寄宿舎で偶然ルームメイトになる。
見た目も性格も全く異なる2人は、始めは激しく衝突するが、次第に友情を深め、互いにとってかけがえのない存在になっていく。だが、この出会いが、やがてオズの国の運命を大きく変えることになる。
名作児童文学『オズの魔法使い』の知られざる物語を描き、2003年の初演から大ヒットしたブロードウェーミュージカル「ウィキッド」を映画化した2部作の前編。『オズの魔法使い』に登場する「西の悪い魔女」となるエルファバと、「善い魔女」となるグリンダの、始まりとなる学園生活を描いたファンタジーミュージカルだ。
シズ大学の学長マダム・モリブル役にミシェル・ヨー、伝説のオズの魔法使い役にジェフ・ゴールドブラム。監督はジョン・M・チュウ。
例えば、「スター・ウォーズ」シリーズでアナキン・スカイウォーカーが後にダースベイダーになることは分かっていても、さかのぼってなぜそうなったのかを描いたように、この映画もエルファバが、やがて西の悪い魔女になる発端が語られるが全ては明かさない。何しろ約2時間40分をかけてもまだ前編なのだから念が入っている。
ここではエルファバよりもグリンダの方がむしろ“悪女”のように見える。映画版の『オズの魔法使』(39)での西の悪い魔女のイメージが強いだけに、これは意外な驚きだった。この後2人はどう変化していくのだろうかという興味が湧く。加えて、魔法学校が舞台なだけに「ハリー・ポッター」的な要素が感じられたのも面白かった。
また、この映画の斬新なところは、エルファバの緑の肌や車いすに乗った妹のネッサローズ(マリッサ・ボーデ)、人間の言葉を話す動物たちの姿を通して、ジェンダー、差別、アイデンティー、人種といったさまざまな問題に対するメッセージを発したことだろう。
先に行われたアカデミー賞の授賞式で、この映画が美術賞と衣装デザイン賞を受賞したことからも分かるように、セットとCGを融合させたカラフルな美術と華やかな衣装も見もの。もちろんミュージカル仕立てなので歌や踊りも楽しめる。
『35年目のラブレター』(3月7日公開)
65歳の西畑保(笑福亭鶴瓶)は、戦時中に貧しい家庭に生まれ、ほとんど学校に通えなかったこともあり、文字の読み書きができない。そんな保を妻の皎子(きょうこ・原田知世)が支えていた。
若き日、保(重岡大毅)と皎子(上白石萌音)は、運命的な出会いを果たして結婚するが、幸せを手放したくない保は読み書きができないことを皎子に打ち明けられずにいた。
半年後、ついに事実が発覚し別れを覚悟する保だったが、皎子は「今日から私があなたの手になる」と告げる。その後、どんな時も寄り添い支えてくれた皎子に感謝の手紙を書きたいと思った保は、定年退職を機に夜間中学に通い始める。
最愛の妻にラブレターを書くため文字の勉強に奮闘する夫と、彼を長年支え続けた妻の人生をつづったヒューマンドラマ。新聞で紹介され、創作落語にもなるなど話題を集めた実話を基に映画化。塚本連平が監督・脚本を担当した。
夫婦の絆、普通に読み書きができることのありがたさ、教育の大切さなどが浮かび上がってくる心温まるいい話ではあるのだが、どうしても鶴瓶と原田が夫婦ではなく親子のように見えてしまい、若き日を演じた重岡とのギャップも目についたのが残念だった。
夜間中学の様子や読み書きができたことへの喜びについては、山田洋次監督の『学校』(93)を思い出すところがあった。
(田中雄二)