『教皇選挙』(3月20日公開)

 全世界に14億人以上の信徒がいるとされるキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者で、バチカン市国の元首であるローマ教皇が亡くなり、新教皇を決める教皇選挙「コンクラーベ」に世界中から100人を超える候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票が始まる。

 票が割れる中、選挙を執り仕切ることになったローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は、何とか無事に選挙が終わることを願うが、水面下でさまざまな陰謀や差別が飛び交い、次々に候補者たちのスキャンダルが浮かび上がる。その対応に苦慮するローレンス。果たして選挙の行方は…。

 ロバート・ハリスの小説を、『西部戦線異状なし』(22)のエドワード・ベルガー監督が映画化し、ローマ教皇選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリー。スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニらが脇を固める。

 政治家を描いた映画は数多くあるが、選挙そのものを描いた映画はそれほど多くはない。その上、教皇の選挙となるとなおさら珍しい。この知られざる“イベント”を通して、聖職者と呼ばれる人たち、引いては男たちの権力や地位への欲望の実態を明らかにするという趣向が斬新だ。

 加えて、システィーナ礼拝堂という、外界から閉ざされた巨大な密室内で繰り広げられる権謀術数、何度も行われる投票、投票を重ねるたびに目まぐるしく変わる情勢という、まさに“根比べ”ならぬ「コンクラーベ」の様子を描いたピーター・ストローハンの脚本が優れているのでパワーゲームを描いたミステリーとして見ても十分に面白い。

 しかもラストには皮肉などんでん返しまで用意されている。先に行われたアカデミー賞で脚色賞を受賞したのも納得の出来。同じくアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされたファインズをはじめ、トゥッチ、リスゴー、そしてロッセリーニというベテラン俳優たちによる丁々発止の演技合戦も見応えがある。

『プレゼンス 存在』(3月7日公開)

 崩壊寸前の4人家族が、ある大きな屋敷に引っ越してくる。10代の娘クロエ(カリーナ・リャン)は、家の中に自分たち以外の何かが存在しているように感じる。

 “それ”は一家が引っ越してくる前からそこにいて、他者には知られたくない家族の秘密を目撃する。母(ルーシー・リュー)や兄に好かれていないクロエに“それ”は親近感を抱く。一家とともに過ごしていくうちに、“それ”は目的を果たすためにある行動に出る。

 『トラフィック』(00)や「オーシャンズ」シリーズ、『コンテイジョン』(11)などを手掛けたスティーブン・ソダーバーグ監督が、ある屋敷に引っ越してきた一家に起こる不可解な出来事を、全編を通して幽霊の一人称視点で描いた新感覚のホラー。脚本は「ジュラシック・パーク」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズなどのデビッド・コープ。

 この小品とも呼ぶべき映画の持つ味わいは、ホラーというよりも心理ミステリーと言った方が近いかもしれない。幽霊の目線に合わせて自分も他人の生活をのぞき見しているような不思議な感覚に襲われるが、やたらと画面を揺らすので酔いそうになるのが難点。

 84分でまとめたためか、登場人物の心理面にはあまり深入りせず、人物描写の省略も目立ったが、その分観客の想像に任せるようなところもある。

 ただ、クロエをはじめティーンエージャーの薬物使用とそれに伴う弊害の描写が目につくので、幽霊よりもむしろそちらの方が怖いと感じた。また、幽霊目線といえば、白い布をかぶった夫の幽霊がひたすら妻を見つめる『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(17)のことを思い出した。

(田中雄二)

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