あのルパン三世が、約30年ぶりに2Dの劇場アニメーションとして帰ってくる。舞台は地図に載っていない謎の島。

お宝を狙って乗り込んだルパン一行を待ち受けていたのは正体不明の存在だった。前代未聞のスケールで描かれ、全ての「ルパン三世」につながる原点ともいえる究極の物語『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』が、6月27日から全国公開された。1995年から30年間ルパンの声優を務めてきた栗田貫一に話を聞いた。

-山田康雄さんの後を受けて、1995年から2代目ルパンの声優を務めていますが、この30年を振り返っての感慨を。

 最初は山田さんのルパン三世の物まねを少ししていただけでした。それが山田さんが倒れて、何とか山田さんの代わりをと言われたけど、そんなことは無理に決まっていると思いました。でも結局やらせてもらったんですけど、自分の中では作品をぶち壊してしまったなというぐらい何もできなかったんです。それは今思えば無理もない。やり方も知らなければ、山田さんがどういうアフレコをしていたのかを見たこともなかったので。スタジオに入って何をしていいのか分からないところから始まったんです。それから年に1回、2日間ぐらいのペースでルパンをやるようになりました。ただその頃は、四天王の物まねもブームだったので、瀬川瑛子さんとか森進一さんとか五木ひろしさんもやらなきゃいけない。

それで2日間だけ急に山田さんをやってというのが年に1回ぐらいあって。それではうまくなりようもないわけです。だから、どうしていいのか分からないまま続けてきた感じでした。

-なるほど。

 あの頃は(声優の)超レジェンドの人たちに囲まれていましたが、今は今のレジェンドたちが横にいてくれる。だから、今までは山田さんを介してルパンをやっていたようなものですけど、最近はやっと僕がルパン三世にさえなればお芝居ができるんだというふうになってきた。特にこの作品の系列では、深夜にテレビでやっていた「LUPIN the Third ~峰不二子という女~」の山本沙代監督から「山田さんに寄せないでください。悪いルパンがすてき。その声がいい」と言われて、それからこういうルパンもあるんだなって。気が付いたら30年という感じですね。30年といっても、最初の15年ぐらいは、それこそ年に2日しかルパンをやっていない。だから毎週のシリーズものでもやらせていただいていたら、もう少し早くうまくなったのかなと思います。

-小池健監督のルパンシリーズが、この映画で5作目になりますが、小池監督の描いたルパンシリーズの印象はいかがですか。

 「LUPIN the Third ~峰不二子という女~」の時も小池さんがキャラクターデザインを描いていましたが、劇画チックで、ポピュラーなルパンとは絵の描写も音楽も全くの別物でした。でも考えたら、(原作者の)モンキー(・パンチ)さんが最初に考えたルパン三世の劇画のタッチを未来に持ってきた作品なのかなと思いました。もしここにモンキーさんがおられたら、よくぞやってくれたと小池さんのことを褒めるんじゃないかなと思うシリーズですね。

-30年間やってきて、栗田さんなりのルパンに対する思いや魅力について。また栗田さんにとってルパンとはどういう存在でしょうか。

 やっぱりルパン三世の声は、パート2や『ルパン三世 カリオストロの城』(79)の頃の、山田さんが一番元気だった頃のテイストが、皆さんが耳慣れているいわゆるルパンの声なんです。そこはやっぱり物まねをする者としてはまねしなきゃいけないところです。もう元がいないからまねのしようがないんですけど、あの声は忘れてはいけないのかなと思います。ただ、そこをベースにして変化をするのはいいと思うんです。作品も変わるし、例えば、峰不二子も増山江威子さんの時代の甘い香水の香りがするようなグラマーな不二子から、今の沢城みゆきさんがやっているシャープでクールで色気があって、悪いことも平気でできる、いろんな意味での現代の不二子に変わったと思うし。山ちゃん(山寺宏一)もすっかり銭形になったし、明夫ちゃん(大塚明夫)も、もう小林清志さんじゃんって。

だから僕もそういう意味では楽になれたんです。みんな少しずつ変化してもいいんだと。

-今回の映画の脚本について感じたことや実際に演じた印象は?

 録音した時に絵もあまり入ってなかったし、僕は1人で声を入れたのでどういう敵と戦っているのかもあまり分からず、こういう感じでというのを監督と一緒に探りながらやりました。声から感じる温度みたいなものがないので、相手がどんな声なのかも分からない。それを全部飛ばしてしゃべっているので、本当にこれで正しいのかなと。だから、そういう意味では、苦労じゃないけど、ほんとにこれで成り立つのかなというのはありました。今回はルパンたちが謎の世界に迷い込んで謎の敵と戦って、しかも前に倒した連中もよみがえってくるみたいな感じです。小池さんはそういうのは全部つなげる人なので、そういうおしゃれが効いている人なので。

-最近、テレビドラマの「御上先生」で人工知能のルパンの声をやっていましたが、こうしたルパンの広がりみたいなことについてどう思いますか。

 モンキーさんは、昔からルパン三世は自分が作り上げたものだけど、どうぞ皆さん、勝手にルパンを使ってやってください。どんなルパンでも描いてみてくださいと、やりたいとおっしゃる人たちにお譲りになっているんです。だからすごくジャンルが広がったんだと思います。

ルパンという物語をいろんな人が描いていろんなルパンが出てきた。それは、もしモンキーさんがずっと俺が作ったんだって守り続けていたらできなかったと思うんです。だから僕も「御上先生」にも行ったし。あれだってルパンのファンはびっくりしたと思いますよ。でもそれを始めたのはモンキーさんなんです。それが広がっていったんです。

-映画を楽しみにしてる皆さんにメッセージを。

 僕が一番楽しみにしているのでどうやってメッセージを出したらいいのか分かりません(笑)。自分も早く劇場で見たい。絵や音はどうなっているのだろうって。小池さんの絵はすごく深いんです。靴の裏まで描く人なんてそんなにいないから。

CGでいいというところも全部自分で描いてしまうらしいのでスタッフも大変だと思います。「LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標」(14)からスタートして、ようやくルパンが主役の作品を作ってくれました。いつものテレビ的なルパンは、滑稽な部分やおちゃめな部分があったり、ちょっといやらしかったりもするけど、今回の映画はそういうのは全くありません。「不二子ちゃん」も言わないし、「銭形のとっつあん」も言わない。その関係性も含めて、初めて見る人はこういうのがルパンなんだと思うかもしれないし、前から見ている人は違うと言うかもしれない。それは分からないけれど、いろんな方に楽しみに劇場に来ていただいて、「おお、なるほど」と感じてもらえればいいなと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)

編集部おすすめ