韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話無料放送)となる。

 地方都市・羽多野町で起きた猟奇的連続殺人を巡り、25年前に同様の事件で妹が失踪した町の警察官・富樫浩之と、異動してきたキャリア警察官・八代真人が、互いに疑いの目を向けながら真相追及に挑む物語だ。

 今回、初共演でダブル主演を務める富樫浩之役の安田顕と八代真人役の水上恒司が、放送を前に撮影の舞台裏を語ってくれた。

-世界が注目する韓国ドラマのリメイクに挑戦すると聞いたときのお気持ちはいかがでしたか。

安田 多くの方に支持される作品を、初めてリメイクさせていただくことに対する責任は感じていました。それと同時に、原作の韓国版が非常に面白かったので、それをリスペクトしたリメイク作品に起用していただけた喜びも大きかったです。

水上 僕もそういう喜びは感じていました。ただ、浮足立ってしまわないように、その点は意識し過ぎないようにしました。

-お二人の濃密な演技も見応えたっぷりでしたが、役へのアプローチはどのようにされたのでしょうか。

安田 僕は今回、原作となる韓国版の「怪物」を繰り返し見て、富樫に相当する人物が、なぜそういう行動をとったのか、心の奥底に何が流れているのか、ということを場面ごとに細かく分析しました。その上で、理解しづらい点については、監督やプロデューサーとじっくり話し合い、詰めていきました。

水上 僕は、安田さんと同じ舞台に立つには、まず台本をしっかり読み込まなければ、と考えていました。その上で、現場で安田さんの作ってきた富樫に、自分が考えてきた真人をぶつけてみようと。

そこで安田さんと相対した結果、「もう少しこうした方がいいかな」と感じた点について、お芝居をチューニングしていくことを心掛けました。

安田 そういった意味では、僕は原作を踏まえたアプローチをしようと思っていました。なぜなら、国が異なるので必然的に文化や風習が変わってくるし、言葉も演じる人も、さらに言えば監督も変わるので、日本版のオリジナリティーはいや応なく出てくるはずだと思って。言ってみれば、音楽のカバーに近い気がした。同じ楽曲でも、カラヤンが指揮するのか、ほかの人が指揮するのかで変わってくるし、チェリストが変われば、奏でるチェロの音も変わるのと同じで。

水上 安田さんがおっしゃる通り、仮に同じようにやったとしても、決して同じものにはなりませんよね。

安田 その分、富樫は謎めいた行動が多いので、「行動に1本筋を通す」ということは意識した。それと同時に、それぞれの人物が抱えている思いを、きちんと紐解いていこうと。

水上 僕はむしろ、自分の持ち味を生かすことを期待されていると思ったので、あえて原作とは異なるアプローチを目指して、声や立ち姿、スーツの着こなし方を意識しました。さらに、富樫を追い詰めていく真人を、外から羽多野町にやってきた異質な人間として差別化できれば…と。といっても、単に攻めの姿勢でいるということではなく、知的で冷静な真人の内側から、そういったものがあふれ出る瞬間を、わかりやすい動作とは違った形で、ご覧になる皆さんに感じていただけたら、と思っていました。

安田 その点、クライマックスが近づいた終盤、真人が富樫に重要な話をするシーンでは、水上くんの目に“本物”を感じたよ。

水上 あそこは、それまで1人で突っ走っていた富樫が、真人の言葉で思いとどまる大事なシーンだったんですよね。だから、それくらいの熱量を持って演じなければ、と思って。

安田 あれはすごく印象に残った。真人の冷静さや熱量を繊細に表現してきた水上くんが、ここ一番で見せるまなざしが本当にリアルで。そう思える芝居を、僕とやってくれたこともうれしかった。

水上 僕自身、どこまでできたか確信が持てなかったので、安田さんにそう言っていただけて、すごくうれしいです。逆に僕は、いろんな人物を追い詰めていく富樫を演じる安田さんのお芝居に、今まで見たことないものを感じ、自分も取り入れてみたいとずっと思っていたんです。でも、さすがにこの作品でやるわけにはいかないので、そこは我慢して、その後に撮影した映画で存分に取り入れさせていただきました。それくらい、安田さんのお芝居には強い影響を受けました。

-そのほか、撮影を通じて特に印象に残ったことがあれば教えてください。

安田 撮影が終盤に差し掛かった頃、原作者のキム・スジンさんにお目にかかる機会があったんです。キム・スジンさんは、それぞれのキャラクターに、ものすごく細かいバックボーンを作っていて、「このシーンでは、こういうアプローチをしましたが、合っていますか」と質問すると、“立て板に水”のように答えが返ってくるんです。

うれしいことに、その答えと自分の考えがほぼ一致していて。しかも、キム・スジンさんは「富樫の孤独を満たしてください」という手書きのメッセージ入りの台本までくださったんです。そのメッセージを読み、僕の中で「怪物」というタイトルと、どこかつながるものを感じました。

水上 僕は、撮影の待ち時間に安田さんと2人でファミレスに行ったときのことが印象に残っています。僕は自分を知ってもらおうと「自分はこんな人間です」と話していたんですけど、安田さんは富樫の衣装のままだったので、ふとわれに返って「僕はこの人を追い詰めていくんだよな」と、不思議な感覚になって(笑)。

安田 水上くんは衣装を汚さないように私服に着替えていたんだけど、僕はそのままで(笑)。そういうきちんとしたところは、見習いたいと思った。でも、あのとき楽しく会話したおかげで、水上くんが、役について深く考え、演じることが心から好きな役者だとわかって、いい関係を作れたよね。

-お話を伺い、劇中のお二人のお芝居の魅力の一端が分かった気がします。それでは最後に、お二人が感じた本作の魅力を教えてください。

安田 ハードなサスペンスでありながら、作品の根底には「親子」という普遍的なテーマがあり、さまざまな親子関係の歪みを盛り込みつつ、最後まで飽きさせることなく進んでいく。その緊迫感にあふれた濃密な人間ドラマが素晴らしかったです。

水上 安田さんがおっしゃった普遍的なテーマは、「名作」と呼ばれる作品には必ず込められているものですよね。しかもそれは、どの時代、どの国、どんなコミュニティーでも通用する。ストーリーの斬新さだけでなく、そういった部分が、原作の韓国版が高い評価を受けた理由のような気がします。もちろん、この日本版でもその点は十分リスペクトした上で作っているので、ぜひ楽しんでいただけたらうれしいです。

(取材・文/井上健一)

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