ラッセル・クロウとリアム・ヘムズワースが共演し、戦場で孤立した若手軍曹と、彼を後方から支援する無人戦闘機のベテラン操縦官の闘いを活写したサバイバルアクション『ランド・オブ・バッド』が8月15日から全国公開された。米海軍全面協力のもと、入念な取材に基づいて現代の軍事作戦をリアルに描写した本作のウィリアム・ユーバンク監督に話を聞いた。
-まず、映画化の経緯からお願いします。
『シグナル』(14)というちょっと変わったSF映画を作っている時に、次の作品はノーマルなものにしようと思い、アクション映画を作ろうと考えました。それで2015年ぐらいから『シグナル』の脚本家と一緒に書き始めたのですが、当時は、ちょうどドローン(無人戦闘機)を使った戦いがニュースなどでクローズアップされ始めた時期でした。それでドローンのパイロットを描いた『ドローン・オブ・ウォー』(14)という映画が作られて、パイロットのトラウマにフォーカスしていました。でも僕らは、必ずしも皆がそういうトラウマを抱えるわけではなく、しゅくしゅくと仕事をこなす兵士もたくさんいるはず。だったら、そちらの方を描こうと。作品としては、いいやつも悪いやつも出てくる、楽しく乗れるようなアクション映画にしたいと思いました。
-生死を懸けた戦場の激しい場面と、のんきにバスケのテレビ中継を見ている基地の一団との対比が面白かったのですが、これは緊張と緩和の緩急をつけることを意識した結果なのでしょうか。
緊張と緩和も含めてコントラストはとても意識しました。ドローンのオペレーターは、自分のミッション中は閉ざされた部屋の中で集中しています。遠隔操作ではありますが、メンタル的には戦地にいる仲間の真横にいるような気持ちで一緒に戦っています。これはドローンのオペレーターの人たちと実際に話をした中で知ったことで、それを表現したいと思いました。
-ジャングルでのサバイバルのシーンはとてもリアリティーがありましたが、これはある意味、デルタフォースとしてはルーキーである主人公キニーの成長物語という見方もできると思いますが。
間違いなく彼の成長物語として描いているところがあります。実際のところ、デルタフォースは陸軍の特殊部隊で、そこにペアリングする空軍のJTAC(統合末端攻撃統制官)のメンバーも腕利きですが、緊急の場合は、実戦経験がなくてもとにかく1人連れてこいみたいな状況になることもあるそうです。今回はそういう設定になっているので、ルーキーのキニーがベテランの特殊部隊と一緒に行動するという話になっています。キニーは、今までクレイジーな経験をしたことがないので、これは若者の無垢(むく)な世界観の喪失の物語でもありますが、当然それを経験したことでより大人になった、新しい別の世界観を持つ人物に成長したという話でもあります。
-リアム・ヘムズワースとラッセル・クロウを演出してみていかがでした。
2人とも自分が演じるキャラクターを見いだすための努力を惜しまず、そのキャラクターの中にある真実や誠実さを見つけてくれます。さらにそのキャラクターにエンタメ性や楽しさも持たせてくれます。ラッセルは、とてもディテールにこだわる人で、自分が触れるものや小道具などについて、なぜそれに触れるのか、それはどんな役割を果たしているのかと考えるところがあります。また、発する言葉に関しても、それを発する意味を把握したいと。だから一緒に仕事をしていて本当に楽しいんです。この先も彼とのコラボ作品が待機しています。リアムはキニーの成長物語という側面があったので、感情的にどういう変化を遂げていくのかについて話し合いながら一緒に考えました。映画を作っている時は大変でしたが、終わった時は充足感を得ました。2人とも最高でした。
-先ほど『ドローン・オブ・ウォー』の話も出ましたが、危険な場所にいる主人公と無線で対話をするという意味では、『バット21』(88)や『ダイ・ハード』(88)を思い出しました。参考にしたり影響を受けた映画はありましたか。
まさに『ダイ・ハード』から大きなインスピレーションを受けました。
-もちろんこの映画はエンターテインメントですけれども、今世界中で紛争が絶えない状況の中で、この映画の意義はどんなところにあると思いますか。
この映画を作り始めた時、ドローンがどんどん変化していろんなことができるようになり、戦争の仕方も変わっていく中で、もっと表現を変えなければいけないのかと悩んだこともありました。でも、これはあくまでもエンタメ作品だと思ったので、ドローンは物語のツールであり、デバイスだと考えるようにしました。自分は善悪がはっきりしているような90年代のアクション映画が大好きです。もちろん現実を思わせるようなグレーゾーンはこの映画でも描いていますが、基本的には娯楽作品として楽しかったり、スリリングだったり、怖かったりというところを目指しました。なので、あまり現実の世界を思い起こさせるような、あるいはそれに対してコメントするような作品にはしたくなかったというのはありました。
-日本の映画についてのイメージやこれから映画を見る日本の観客に向けて一言お願いします。
大好きな日本で公開されるのがうれしくてしょうがないし、とても光栄なことだと心から思います。日本の観客には、とにかく楽しんでもらいたいと思います。日本の映画監督といえば、やっぱり黒澤明監督と宮崎駿監督。世界中の全ての映画監督が、この2人から影響を受けていると思います。このレジェンドたちから、きっと気づかないうちにいろいろと盗んでいたり参考にしているところもあると思います。好きな日本映画を1本だけ挙げるなら黒澤の『七人の侍』(54)です。
(取材・文/田中雄二)