『鉄コン筋クリート』(06)、『海獣の子供』(19)を始め、個性的なアニメーションを次々と送り出してきたSTUDIO4℃。その最新作が、アンデルセンのおとぎ話『人魚姫』をベースに、人間の青年・ステファン(声:鈴鹿央士)と人魚王国のお姫さま・チャオ(声:山田杏奈)のドタバタでミラクルな恋の行方を描いた『ChaO』(8月15日公開)だ。

この作品で、ステファンが働く造船会社の社長、シー社長の声を演じているのが、お笑いコンビ“南海キャンディーズ”の山里亮太。そして、チャオの父親で人魚王国の王ネプトゥーヌスの声を演じているのが、数々の作品で活躍する声優の三宅健太。公開を前に、物語の行方に深くかかわる2人にその舞台裏を聞いた。

-とても魅力的な作品の上、お二人の声も役にぴったりで、最後まで没頭してしまいました。まずは、出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。

三宅 STUDIO4℃さんの作品には、これまでも何度か出演させていただきましたが、毎回、「どんなものを見せてくれるんだろう?」とワクワクするんです。今回は人魚王国の王ということで、「きちんとやらないと、この画に負けてしまうぞ」と挑まれているような気もして、一生懸命演じさせていただきました。

山里 STUDIO 4℃さんからお声掛けいただいたことが、すごくうれしかったです。僕とNSC(吉本興業の養成所)で同期だったキングコングの西野(亮廣)が書いた絵本『えんとつ町のプペル』が、STUDIO4℃さんの手で素晴らしい映画になったのを見て、そのすごさは実感していましたから。これでようやく、彼が見た景色を、僕も少しは見ることができたかなと(笑)。

-続いて、お二人がどのように役に取り組んだのか教えて下さい。まずは、山里さんからお願いします。

山里 お話をいただいたとき、シー社長は僕のキャラクターにぴったり、という説明があったんです。アフレコのときも、「山里さんだったらこの状況でどう言うか、くらいの気持ちで演じてください」と言われたので、ひとまず僕の思った通りにやってみて、それに対して必要な場合は指示をいただき、微調整する、といったやり方で進めました。

-シー社長はかなりしたたかな人物ですが、その点ではどんなことを心掛けましたか。

山里 ありがたいことに、“したたかさ”に関しては、これまでそれで芸能界を渡ってきたので、そのまま活かすことができました(笑)。この日のために自分はしたたかに生きてきたんだなと。長年の経験がようやく実を結びました(笑)。

-ネプトゥーヌス国王役の三宅さんはいかがでしょうか。人魚という設定の上に、娘と接するときと、それ以外では雰囲気がだいぶ違いますが。

三宅 ネプトゥーヌス国王は、「屈強で、威厳があり、でも娘に甘い」。最初にその3つのファクターを大事に、と伺いました。それを踏まえた上で、劇中ではステファンとチャオの前に立ちはだかる壁のような存在ですが、悪役ではないので、なるべく彼の中に正義があるように、ということを心がけました。全ては娘の幸せを願う気持ちから生まれる行為なんだと。

-キャラクターの魅力の一端が窺えるお話をありがとうございます。ところで、山里さんはアニメの声優はこれまでも何度か経験されていますが、どんな思いで取り組んでいますか。

山里 どんな仕事でも緊張はするものですが、最も緊張するのが声優のお仕事かもしれません。声優って、本当にすごい世界だと思うんです。親しくしている声優の山寺宏一さんや宮野真守さんからも、いろいろと話は聞いていますし。だから、僕には手の届かないすごい場所に参加させていただいた上、こんなすてきな役をいただき、申し訳ない、という気持ちもあります。でも、そうやって萎縮しすぎると、作品に迷惑をかけることになるので、どこかで自信を持って臨まなければいけないんですよね。そういう意味では、常に新人のつもりで参加させていただいています。

三宅 本業が声優の僕から言わせていただくと、山里さんはプロの声優としてのお仕事をされていると思います。ピタッとはまっていますし。

山里 もったいないお言葉です。仮にそうだとするなら、それは、そんなふうに僕を導いてくださったスタッフの皆さんのおかげですし、僕の入る隙間を与えてくれたシー社長というキャラクターの懐の深さです。

-三宅さんは、山里さんのように本業が声優でない方とご一緒することで、刺激を受ける部分もあるのでしょうか。

三宅  ものすごく刺激的です。正直言って、山里さんには悔しさすら覚えるくらいで(笑)。

山里 やめてください(笑)。

三宅 人間性そのものが声に乗るって、とても羨ましいことなんです。例えば僕は、二次元のキャラクターに声色を寄せていこうとする時があります。でも、そんなことをしなくても、ちゃんと成立するわけですから。それが本当にうらやましい。

山里 ポジティブに捉えていただき、ありがとうございます。

三宅 “山里亮太”の名が全国に知れ渡っていても、この作品で聞く限り、シー社長なんです。きっと皆さん、“声優・山ちゃん”として聞いてくれますよ。

山里 そんなことを言うと、山寺(宏一)兄さんに怒られますよ(笑)。

でも、僕にとっての“いい映画”って、いつの間にか自分をその世界の住人にしてくれるような作品なんです。STUDIO4℃さんの作品がまさにそれで。この作品も、全シーン、全秒、全コマが本当にきれいで、すてきなんです。ちょっと見上げたら、チャオたちがいそうな絵力にあふれ、観客を没入させる力がある。だからこそ、見ている最中は、一瞬でも意識をほかに向けてほしくない。そういう意味で、シー社長を見ながら、僕の顔が浮かんでこなければいいな、と思っているんです。

三宅 その心配はないと思います。でも、山里さんのおっしゃるように、この作品を見ると、確かに街の活気が生き生きと伝わってきますよね。名もなき人たちまで、当然のようにそこにいて、人生を感じる描写がちりばめられている。いつもあそこにいる彼は、きっとこんな人生を送ってきたんだろうな…って。そういう空気を感じさせるように、街の描写にはかなりこだわっていますよね。

山里 人間と人魚が共に暮らす街の世界観も、すごく面白いですし。

-そういう世界観の中で、お2人の掛け合いをもっと見たくなります。

三宅 ここはひとつ、STUDIO4℃さんに頑張っていただき、われわれのスピンオフを作ってもらいましょう!(笑)

山里 短編「王と社長」を、ぜひお願いします!(笑)

-この作品は世界最高峰のアニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭2025で審査員賞を受賞していますが、その点を含めた喜びを改めてお聞かせください。

三宅 本当におめでとうございます、と拍手を送りたいです。「日本アニメ」という枠を超え、STUDIO4℃さんの作品自体が、映像作品として世界に通用するんだと知らしめた感もあり、とても心強いです。それだけ力のある作品に参加しているんだと胸を張らせてもらえる気もして、嬉しいです。

山里 僕も本当にうれしいです。ただ、こんな素晴らしい作品にかかわれただけで、そのうれしさはマックスの状態なんです。だから「受賞した」と聞いても、「当然だよね」としか思わなくて(笑)。それくらい素晴らしい作品なので、できるだけ多くの方にご覧いただきたいです。

(取材・文・写真/井上健一)

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